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小説の中へ [16]



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投稿日 : 2009/04/06(Mon) 02:41 
投稿者 : tate   


 雲の隠れ家の一室、襲撃から免れた数少ない部屋の中で、デデデ大王は椅子にふんぞり
返って渋い顔をしていた。ダークマインドとの戦闘からまだ数刻程しか経っていないが、
彼は応急手当とルナの治癒魔法で傷を癒し、陣頭指揮を執っていた。
 渋い面を作るデデデ大王の目の前には、ペイントローラーがいる。
「夢の泉にダークマターがおりまシテ、そいつが悪夢を吐き出してイルようなのデス。私
とスラッド殿で排除を試みまシタガ、非常に強い力を持っていテ、私たちでは敵いませン
でシタ……」
 ペイントローラーは、夢の泉の周囲が絵画と化していたことも併せて伝える。
 身振り手振りで、夢の泉の出来事をすべて伝えようとするペイントローラーの口を、デ
デデ大王はわざとらしい咳払いで綴じさせた。
「概ね状況はわかった。して、お前はここで何をやっておる。お前にはスラッドとやらの
監視を命じたではないか」
「いや、カービィが一緒におりますカラ。それに、スラッド殿はダークマインドを撃破す
ルのにも協力していマスし、やはりその言いようは大王様とは言エ……」
「得体も知れぬ輩を拠点に招きいれているのだ。監視の目をつけてしかるべしだろう」
 さっさと行け! と恫喝気味に申し付けると、ペイントローラーはしぶしぶと部屋を出
て行った。入れ替わりに入ってきたのは、シャドーカービィとウィズの二人だった。
「お呼びだと聞いたものでね」
「おお、来たか。……もうお前達も察していると思うが、ダークマインドは消滅した」
「はい。ボクもこの目で確認しましたし、あの様子なら近く復活するようなことはないと
思います」
「うむ。――ウィズよ、約束のことをお前は覚えているだろう」
 そりゃあね、とウィズは肩を竦めた。
「約束を忘れ去ってしまうほどの時間は経っていないよ、こんなに早くカタがつくとは思
っていなかったけどね。流石は、本家のカービィとデデデ大王様といったところだねぇ」
「約束……とは何ですか?」
 シャドーカービィが首を傾げる。
「シャドーには話していなかったね。私たちは、ダークマインドを倒すまでという期限付
きで、プププランドへの滞在が許可されているんだ」
「そうなの?」
 そうなんだよ、とウィズが飄々と話す。
「ダークマインドを撃破した今、我々がプププランドにいる理由はなくなったわけだし、
もともと勝手にこちらの世界にお邪魔しているわけだからね」
「でも、ドロシアとかいう敵が……ダークマインドを倒すのも協力してもらったし……」
 シャドーカービィが足元に視線を落とした。
「その通り。ワシ達はまだまだ多くの敵と戦わねばならん。だがな、鏡の国の住人である
お前達がそれに付き合う必要はないぞ。ダークマインドのことは行き掛けの駄賃だ、気に
病むことはない。それに、鏡の国はほったらかしでよいのか? マスターソードやらも破
壊されたままなのだろう」
 うつむくシャドーカービィに、ウィズが目をやった。
「デデデ大王の言うことも一理、私たちは本来あるべき私たちの役割に戻る頃合かもしれ
ないね、シャドー。マスターを修復するにしてもこちらでは出来ないし、ダークマインド
が消滅したからといって、鏡の国はもう安全だとは断言できないからねぇ。完全に消滅し
たことを確認することはできないから、鏡の国をずっと空けるのは些かマズいかもしれな
いねぇ」
「うん、ウィズの言うこともわかるんだ。でも……」
 デデデ大王は大げさに溜息を吐いた。椅子の背にもたれていた上体を起こし、シャドー
カービィを覗き込む。
「なんだ。お前はワシ達の力では、この国の厄災を振り払えないとでも言いたいのか」
「そんなことはないです!」
「だろう? ならば何に不満がある」
 と、デデデ大王は満足そうに微笑むと、再び椅子にふんぞり返った。
 シャドーカービィの目が、はっと一瞬大きくなった。
「――お気遣い有難うございます、デデデ大王様。ボクたちはダークマインドの撃破をも
って鏡の国に帰ります」
「私は弟妹の元を訪ねてから戻るつもりだけどね。……それぐらいは許してくれるよね、
デデデ大王様? 一応ダークマインドを倒した立役者なのだし」
 弟妹……? とふと疑問を抱いたりもしたが、その程度なら構わんぞと鷹揚に頷いた。

 人気のなくなった部屋の中で、デデデ大王は腕を組んで瞑目した。
「夢の泉が絵画化していたということは、ドロシアとやらが一枚噛んでいるのは間違いな
いだろう。しかし、ダークマインドと敵対していたということは……ドロシアがゼロと組
んでいないか、ダークマインドがゼロとは関係ないのか……どう思う、フラービィよ。―
―フラービィ、フラービィ?」
 デデデ大王が背後を振り返る。デデデ大王は、フラービィはてっきり彼に随伴している
ものと思い込んでいたのだが、そこには誰の姿もなかった。
「まったく、どこで何をしているのやら。夢の泉の闇か……対処せざるを得ないが、どう
したものか」


 デデデ大王の部屋を後にしたシャドーカービィとウィズは、共に戦ったカービィ達の元
にやって来た。
 傷付いたワドルドゥや、未だに意識を取り戻していないMr.ブライト、傷を押して戦
ったブレイドナイトやソードナイトが体を休めている。その間を、ルナとペイントロー
ラーがあたふたと走り回っていた。
「あ、灰色のボク! やっほ〜!」
 スラッドの側にちょこんと座っていたカービィが逸早く二人に気付き、ぴこぴこと小さ
な手を振ってきた。シャドーカービィが同じく小さな手を振って答える。
 カービィが横になる人々の間をすり抜け、こちらにやって来た。
「どこか具合でも悪いの? それともお手伝い?」
「ううん、ボクたち、鏡の国に帰るんだ。だから、その前に挨拶をしておこうと思って」
 帰る!? とカービィの素っ頓狂な声が、部屋中の空気を振るわせた。意識のあるもの
の視線が、カービィに集まる。
「うん。ダークマインドを倒したからって、鏡の国をほったらかしにはできないから。そ
れに……」
 ちらりと、シャドーカービィは折れたマスターソードの柄をカービィに見せた。
「マスターソードは、鏡の国でないと修復できないんだ。……もし、もしね。桃色のボク
がピンチになったら、ボクは君を助けにくるから」
「……そっか。ちょっと寂しいけど、やっぱり自分の故郷は守りたいもんね」
 カービィは右手を差し出した。シャドーカービィも自身の右手を差し出し、握手を交わ
す。
「ホントにどうしようもなくなったら、ボクたちを助けてね、灰色のボク」
 そして二人はそっと手を離した。
「さあ、行こうか、シャドー」
「うん。それじゃ、皆さんお元気で!」
 シャドーカービィはウィズの肩に飛び乗る。それを確認すると、ウィズはポップスター
の空に向かって飛んだ。

  *

 掌にいるはずの者の存在がなくなったのを察知したのか、ワムバムジュエルが動きを止
めた。
「きゃー! チナツさんが落ちちゃったですぅ!! ビュートさぁ〜ん、大変ですぅ〜一
大事ですぅ!」
 あわあわと慌てふためきながら、ビュートの周りをくるんくるんと飛び回る黒丸を他所
に、ビュートはチナツが海に向かって一直線に落ちていく様子をまんじりと見つめている。
 やがて、海面が小さく跳ね上がった。
「通信機はチナツが持っていたか」
「つーしんき? なんですぅ?」
「この程度の大きさの、ドロッチェが連絡を寄越すときに使っている物だ」
 ビュートが両手の親指と人差し指で長方形を作って、黒丸に見せた。「そういえば〜」
と黒丸がしげしげとビュートの指を見つめている。
「アレが意図的に落ちたのでなければ、連絡を寄越すだろう。それにこれから暫くは居な
い方が都合がいい、追い出す手間が省けてたというものだ。ワムバムジュエル、マジルテ
に向かえ」
 ビュートの指示で、再びワムバムジュエルが空を滑り出す。
 青年の目の前にぽふんと降り立った黒丸が、つぶらな瞳で対面する人の顔を見上げた。
「追い出す……私のことも追い出すぅですか? 居ない方がいいですぅ?」
 眼鏡の奥に見える灰白の瞳が、冷えたまま黒丸を見下ろしてきた。
 ぷるぷると黒丸は小さく体を震わせた。死を怖いと思うことはないが……元より自分は、
ゼロが作り出した闇が仮初の自我を持ったに過ぎない存在なのだから……ビュートのこう
いう視線は怖いと、黒丸のどこかにある心が震えている。
 何故怖いなどと感じるのだろうか、黒丸にはわからない。
「――お前は……闇と繋がっているのか?」
「はぇ? 何ですぅ?」
 黒丸は、目をぱちくりと瞬かせた。
「お前の見聞きした情報が、自動的にお前の主に送られているのか、と聞いている」
「ゼロ様にですぅ? 私からは意図的に繋げないと繋がらないと思いますですぅ。ゼロ様
の意思で介入されたら、多分抵抗できませんですぅが……」
「――マジルテに着いたら、まずは内部にどれ程のダークマターが残っているかの調査だ
な。黒丸、お前に任せる」
「調査ですぅ? わかりましたですぅ!」
 ぽよんぽよんと跳び回る黒丸を、ビュートはもう見ていなかった。

---

シャドーカービィとウィズは、鏡の国に帰りました。
ウィズはシミラたちの元に立ち寄ってから戻るようですが、シャドーカービィはまっすぐ
鏡の国に帰ったので、今後は基本的には登場できないものとお考え下さい。
……鏡の国の奮闘をどうしても書きたい! という場合。それを止める権限は私にはあり
ませんが、更なる混沌を招くだけだと思うので、あまりオススメは致しません。
 
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投稿日 : 2009/04/10(Fri) 00:19 
投稿者 : 笹  


 紺碧の壁が近付いてくる。壁は、ギラギラとした瞳で少女を睨み付けている。少女は逃
げたいと思ったが、少女の体はその意に反して壁に向かっていく。壁に激突する瞬間、壁
は白い歯を見せながら大きく口を開いた――



「!!!!!」

 全身に伝わる凄まじい衝撃が脳によってリピートされて、チナツは目を醒ました。無意
識に自分の顔に手を当てると、その触覚はかなりの汗を感じ取った。
「(…ここ、は……)」
 焦点が定まらない。寝起きだからだろうか。それでも何とか視線を周囲に走らせると、
どの方向に頭を向けても、割と近い位置に白い物があることに気付く。どうやら自分は薄
暗い、割と狭い部屋の中に寝ているようだ。
 一呼吸置くと、自分にかけられた毛布にくるまりながら体を起こし、自分の左側、一番
手近にあった壁に寄りかかる。体がだるい。おまけに寒気がする。
「(…夢じゃないよね……でも生きてる……)」
 アイツが助けてくれたのかしら。
 回らない頭で一つの結論に辿り着く。ぼーっと前方を眺めていた視線が、光の筋を捉え
た。明かり取りの窓だろうか。狭いながらも強い日差しが差し込んでいる。
「……っくしゅ……ッ〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
 不意に小さなくしゃみをして、頭をハンマーで叩かれたかのような激痛に、思わず両手
で額を押さえ付ける。同時に発生した耳鳴りも、なかなか鳴りやまない。
「(……あたまいたぁ……って、もしかして…)」
 くしゃみに頭痛、鳴りやまない耳鳴り、体がだるくて寒気がする。どうやら、焦点が定
まらないのも寝起きだからではなさそうだ。
「……最悪。」
 頭痛で一気に目が覚めたチナツは、小さく呟いた。そして、改めて考えを巡らせる。
「(アタシはワムバムジュエルから落ちて、海に激突した。でも何とか死なずに済んで、
 今はどこかのベッドで寝てる。と言うことは、やっぱり誰か助け)っくしゅ」
 コントロールできない頭痛が再びチナツを襲い、片手を額に当てる。考え事もろくにで
きやしない。

  ぱたぱたぱたぱた

『ソードナイト殿ー!ルナ殿がどこにいるか知らないでありますかー?!』
 不意に部屋の外、チナツから見て扉の向こう話から声が聞こえてきた。反射的に口元を
押さえ、息を殺す。
『ルナ殿なら先ほどまでここに……そんなに急いで、どうしたのです?』
『Mr.ブライト殿がうなされているのです!』
『何だって!本当ですか?!』
『はい、今までは息も絶え絶えで声など発さなかったのに……好転したのか悪化したのか
 も分からないのであります!それで、ルナ殿に診て貰おうと……』
『ルナ殿なら、先ほどまでこちらの部屋に』
『この部屋……倉庫に、でありますか???』
『今、この部屋には病人が眠っているのです。ルナ殿は先ほどまで看病をしていらっしゃ
 いました』
『今もいるでありますか?』
『いえ、10分ほど前に、大量の衣類を抱えて出て行かれました。Mr.ブライト殿のそばにも
いなかったのならば、洗濯場にでも居るのではないでしょうか』
『なるほどであります!行ってみるであります!』
『はいもしこちらで見かけたらその旨伝えます!』

  ぱたぱたぱたぱた

 扉が開かれるのではと焦っていたチナツは、安堵のため息をもらす。
「(でも……Mr.ブライトってあの太陽よね…ということは、ここは、敵の……)」
 自分が敵だと言うことが認識されている可能性は充分にある。しかもどうやら見張りま
で立っているらしい。
「……最悪」
 2回目を、誰にも聞こえない大きさで呟く。
 ともかく、ここが敵の拠点であれば、脱出しなければならない。あの状況から先に敵に
拾われたぐらいだから、ビュートが助けに来てくれるという望みも持てないだろう。
「(……あの窓は、小さすぎる。他に使えそうな物は……)」
 よく見てみると、自分が寝ているのは木箱の上だったようだ。しかし他には何も見あた
らない。本来倉庫だというのであればもう少し何かあっても良い物だが……。考えている
と頭痛が強まる。
「(……あーもうっ。こうなるとあのドアしかないわけよね。様子を……)」
 毛布をはね除け、木箱のベッドから降り
「わっ」
 小声ながらつい声が出て、慌てて両手で口を押さえる。そのままの姿勢で床に膝から転
落した。幸い木箱が低かったため、落下で音が立つことはなかった。
「(何か、動きにくい……)」
 足に布が絡みついているような感覚がある。木箱に手を付いてゆっくりと立ち上がると、
自分の足下にまず目をやってみる。
「(何、コレ……)」
 本来見えるはずの自分の足が見えない。代わりにそこには、足首まである長いスカート
が揺れていた。改めて全身を見ると、自分がいつもの身軽な服ではなく、ロングのワンピ
ースを着ていることに気付く。
「…………」
 さらにそのワンピースの生地が小さなウサギのシルエットで満たされ、ご丁寧に胸元に
ウサギの顔のアップリケが縫いつけられていることに気付いた頃には、もはやあらゆる気
力を失っていたチナツは、『三度目』を発することもないままベッドに仰向けにひっくり
返った。

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投稿日 : 2009/04/12(Sun) 00:37 
投稿者 : 百城葛葉  


 ピョコピョコ手を振りながらシャドーカービィとウィズを見送るカービィ越しに、ペイントローラーも2人を見送った。
そしてすぐに、先ほどまでカービィが居た所…スラッドの方を見る。
 シャドーカービィたちにも反応を示さずに居た彼は…その場を動かず『横たわって』いた。
正確に言えば、『気絶』状態で寝かされているのだ。

 ダークマインドが消滅し、ドロシアが飛び去り、雲の隠れ家に味方側だけが残されたあの後。
無傷組が辺りを見回り、これ以上の襲撃がなさそうだとウィズがデデデに報告した時、
それが聞こえたらしいスラッドは糸が切れたかのようにその場に崩れ倒れた。
 傷が深い割に火傷が多いため出血そのものは少なく呼吸も安定しているため、
手当てをしたあと安静にするのも兼ねてその場に寝かされていたのである。

 デデデ大王を庇ったり、気絶するまで頑張ってたりと、やはりスラッドを『監視』する目で見れないと思ったペイントローラーの視界に、
小走りでスラッドに駆け寄るルナが入ってくる。
(「彼女が来たのなら、任せて大丈夫カナ。」)
 そう思ったペイントローラーは、追加の包帯や救急道具を描こうと壁に向かった。



 部屋の大体の人の回復を終えたルナは、スラッドの傍に駆け寄るとすぐにしゃがみ込んで彼の様子を診た。
 目を覚ます様子はないが、規則正しく繰り返される呼吸は彼がまだここに生きている証明になっている。
しかし、手当てのみされたその左肩にはいまだ光線の貫通傷があり、身体のあちこちにも掠ったような火傷の痕がいくつもある。
 昏々と眠り続けているスラッドを見て、ルナの思考の端にはあの瞬間…スラッドが光線に貫かれた瞬間がフラッシュバックのように蘇った。

 彼がぐらついた瞬間、倒れる母がだぶって見えて箍(たが)が外れそうになった。また護れなかったと泣きそうになった。
 しかし、彼は倒れなかった。踏みとどまり、声を上げて注意を促す。
そこが母の時と違い、ルナ自身も暴走する前に踏みとどまれた。
 …けれど、けっきょく彼はこうして、倒れてしまった。

 スラッドに手をかざし、治癒の呪文を唱える。そうしながら、ルナはフラッシュバックの影響と心配と…
護れなかったと言う気持ちでいっぱいになっていった。




 ふわりとした感覚を感じ、それと同時にスラッドは目の前の暗闇に気付いた。身体が重く感じ、目も閉じている感覚がある。
途切れている記憶含め『以前なったことのある感じ』に、スラッドは少しぼやけた意識の中ですぐに『自分が気絶した』と理解した。
(「…ああ、そっか。 戦闘終了って聞いて一気に緊張切れたのか。 …まだまだだよなぁ、俺も;」)
 何とか気絶直前の記憶を引っ張り出し、そう思う。

 特殊攻撃を何発も掠り、一発は直撃も食らい、挙句の果てには仮眠した以外は走り通しだったのだから倒れるのも無理はないのだが。

 ふいに、暖かさを感じた。すぐに全身に広がるごく最近感じたその『暖かさ』に、スラッドは一人の少女の姿を思い浮かべた。
薄く蒼い髪をした、優しげな少女…。
 そのイメージが正解かを確かめたくなり、スラッドはある意味全力で『目を覚まそう』と努力し…うっすらとだが、目蓋を開いた。
 おぼろげな視界に映ったのは、自分を覆う光と…予想通りの、淡い蒼。
「…ルナ、ちゃ…」
 ぼんやりしながら名前を呼びかけて、スラッドははっきりしてきたその光景に一瞬固まった。
眼前の彼女は、今にもこぼれそうなほどに目に涙をためていたからだ。
「…スラッドさん、よかったぁ。」
 目を明けたことに気付いたルナが安堵に微笑む。と同時にボロッとその蒼い瞳から涙が落ちて、硬直したスラッドの思考は一気に慌てる方に動き出す。
「あ、と、ルナちゃ…ッ!」
「あ、まだ動いちゃ駄目ですよ!」
 起き立てにも構わず身体を起こした瞬間、左肩の鈍痛に顔をしかめる。その様子にあわてたルナに、スラッドは痛みをこらえつつも苦笑を返す。
「…つぅ; いや、食らったときよりは痛くないから大丈夫…つか、俺の所為だよな、これ。…悪い。」
 いまだポロポロとこぼれているルナの涙を一度だけぬぐって、スラッドは真剣顔でそう呟く。
「あ、いえ、これは…」
「あ〜! スラッド起きたんだ!」
 目をこすりながら必死に弁解しようとするルナの声を遮るように、
見送り終わってこちらに気付いたカービィがそう声を上げてスラッドに…軽めに飛びついた。
「だっ!! こら、おまっ、まだ傷ちょっと痛いんだっつーの!!」
「…起きがけだというのに騒がしいね、君ハ;」
 ルナに対してとは違い素直に顔をしかめつつカービィを引き剥がすスラッドに、声に気付いたペイントローラーも替えの包帯を持って寄って来ていた。

 涙をぬぐったルナの回復とペイントローラーの手当てを受けながら、スラッドは気絶中のことを説明してもらった。
とはいっても、ペイントローラーがデデデ大王に泉の報告をした事や鏡組が帰ってしまったこと以外は
現状見たままな惨状があまり変わっていないわけだが。
「そっか、あの黒いカービィとか帰っちまったんか。 …ちょっとでも肩並べたんだから挨拶したかったが、しゃあねぇか;」
 『気絶した自分が悪いんだし。』と呟き、そこで傍と気付いたスラッドはペイントローラーに向き直る。
「…てか、報告終わったんなら、ペイントローラーもアイスクリームアイランドに帰れるんじゃ?」
「あ〜…それが、また別の任務も頼まれてしまっテネ;」
 若干ばつが悪そうに遠い目をして苦笑するペイントローラーに「へぇ…。」と薄い相槌を返したスラッドは、
何かに気付いた顔をするとルナとカービィに動作で『耳塞いで』と示す。
 小首をかしげて耳をふさぐ2人を確認すると、今度はペイントローラーに手招きし、こっそりと耳打ちした。
「…大将に俺の監視でも頼まれたか?」
「ナッ!?」
 少しも明言していなかったことを言い当てられ、ペイントローラーは驚愕する。
が、言った当人のスラッドはあっさりとした態度で頭をかいていた。
「あ〜、まぁ、大将の立場とこの現状ならそれもしゃあねぇわな。 …じゃ、まずやることはアレ、か。」
 そうペイントローラーに聞こえるよう呟くと、少しふらつきながらスラッドは立ち上がった。
急に立ち上がったスラッドに、ルナが耳ふさぎを解いてあわてて声をかける。
「あ、スラッドさん!」
「俺はもう大丈夫、だよ。 ルナちゃん、ちょっと休んでな。他の部屋の治癒もあるんだろ?」
「え? そ、そうですけど…。」
 きょとんとした様子に微笑みかけると、スラッドはカービィとルナをポフンと撫でる。その行動に、カービィも耳ふさぎを解除した。
「カービィ、手当て時のルナの手伝いちゃんとしろよ?」
「わかってるよ。」
「ペイントローラー、俺大将の部屋の位置わかんねぇから案内たのま。」
「了解したけど…何しに行くんダイ?」
 そういって、手当ての際に脱いだコートを羽織りつつ歩き出すスラッドに、
不思議そうな顔をしながらペイントローラーは歩き寄りつつ声をかける。
「ん? 自己紹介。」
 返ってきたスラッドの答えは、ものすごくあっさりしたものだった。


 夢の泉の闇、魔女ドロシア、そしてゼロの軍勢…。
 いまだ残る敵、そして新たに判明した敵の対処にデデデ大王が頭を悩ませていると、不意に入り口の扉がノックされた。
「…誰だ?」
「俺だよ、大将。」
 顔を上げたデデデ大王の目に映ったのは、平然と入ってくる銀色の髪と瞳を持つ黒いコートの男…。
「お前か。 …なぜここにいる? ペイントローラーはどうした?」
「アノ…。」
「しっかり付いて来てもらってますが。 つか、俺が単体で大将の部屋わかるわけねぇだろ。」
 スラッドの後から顔を出したペイントローラーと、それを指差してキッパリ言うスラッドに、
デデデ大王は眉を寄せたままため息をつき、怪訝な表情をスラッドに向ける。
「して、何のようだ? ワシはお前を呼んだ覚えはないぞ。」
「特に大将にどうこうしようとは思っちゃいねぇよ。 …ただ、あん時後回しにした自己紹介しに。」
 そういってにっと笑うスラッドに対し、デデデ大王は未だ怪訝な表情を崩すことはなかった。

 自分の名前、修行の旅をしていたこと、闇に気付いて知っている泉を調べに行ったこと、
敗走した際に攻撃されたらしく落下したルナを助け、その際にカービィと合流してここに報告に向かっていた事を一気に告げ、
一度スラッドは言葉を区切る。
「まぁ、泉の件はペイントローラーが報告したッぽいから割愛、と。」
「…なるほど、お前の状況は大体わかった。」
 遮ろうとした咳払いを全力でスルーされ、不機嫌極まりないといった表情でデデデ大王はスラッドを見る。
「報告が目的ならば、もはやそれは済ませただろう。修行の旅とやらに戻ってもいいのではないか?」
「大王様、そんな言い方をしなくとモ…!」
「冗談。あの魔女っぽい奴含めてまだ敵がいやがるってのに、はいそうですかと抜けれるかよ。」
 状況的に、あまり不確定の者をとどめたくないと遠まわしに切り出したデデデ大王だったが、スラッドはあっさりと断りを入れる。
 そのあまりの即答振りにペイントローラーはきょとんとし、デデデ大王はスラッドをぎろりと睨む。
「…ワシらだけでは役不足だと?」
「個人レベルじゃそう思っちゃいないさ。…けど、明らかに兵数不足ではあるだろ?」
 スッパリと指摘され、デデデ大王はぐう、と言葉を詰まらせる。
「大将達は個人レベルでは強い奴が多い。けど、ゆえに数人倒れると一気に戦力ダウンになっちまう。
…『どこぞの馬の骨かわからない奴』でもなんでも、一人ぐらい捨て駒はもっといた方いいぜ。」

 それは、暗に『自分をそう扱っても構わないから、味方にいさせてくれ』という願い。
 
 言い終わり、自信ありげに笑うスラッドにデデデ大王は何度目かわからないため息をついた。
「戦闘終了後に気絶した男が何を言う。」
「うぐっ;」
 今度はスラッドが痛いところを突かれ、音を上げた。その様子に、ほんの少しだけデデデ大王の気が晴れたらしく、雰囲気が若干弛緩する。
 と、部屋の外にざわめきが聞こえ、3人の意識がそちらに向く。
「…なんだ?」
「カービィたちがいる部屋のほうでスガ…。大王様、少々見てきマス。」
「あ、俺も行くぜ。 んじゃ、大将、また後で。」
 デデデ大王に一礼してペイントローラーは走り出し、スラッドはひょい、と軽く言うとその後を追おうとした。
「あ、待たんか! 勝手に行動していいとは言っとらんぞ!」
 その声に足を止めたスラッドは、デデデ大王のほうに振り向くとこの上なく優しく微笑んだ。
「大丈夫だよ、大将。」
「…何?」
「敵があのアホ一族…ダークマターとそれに組みする者である限り、
 大好きな世界が危険に晒されている限り、そして、俺の命と意思がここにある限り、
 俺は、大将達の敵にはならねぇ。」
 デデデ大王の目をまっすぐ見て言ったその言葉は、本当の…彼の『本音』に聞こえた。
「守られる事も多々あるだろうけどよ、俺が護るべきであるときはキッチリ護ってやる。な♪」
 にっと、先ほどまでの笑顔で笑うスラッドに、デデデ大王はため息をついた。
「…とりあえず、お前の言いたいことはわかった。」
「流石大将。」
 その時、遠目からペイントローラーのスラッドを呼ぶ声が聞こえ、
スラッドはひらりと手を振ると走り出し…かけて、扉の向こうから顔だけひょっこり出して戻ってきた。
「っと大将。」
「なんだ、まだ何かあるのか?」
 呆れた顔をするデデデ大王に苦笑を返し、スラッドは頷く。
「いや、ここの座標の真下に相方待たせてあるんで、そっちの回収を頼もうと思ってたの忘れてた;」
「図々しい奴だ。 …一応考慮してやる、特徴を言え。」
 その返事に「すまねぇ」と呟き、スラッドはあっけらかんと言った。
「俺が改造した、ヘビーロブスター。」
「・・・は?」
 一瞬だけ脳に情報行くのが遅れたのか、デデデ大王がそう返したときには既にスラッドは走り出していて、声が届くことはなかった。

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タイトル : Re^2: 11スレ目小説の中へ 
記事No : 438 
投稿日 : 2009/04/12(Sun) 15:35 
投稿者 : tate    
参照先 : http://wikis.jp/knml_relay/ 

時間軸:No.437と同じぐらい

---
 マジルテ深部――
 かつて、ブレイドナイトが追い求めたという宝剣の捧げられていた祭壇を、ドロッチェ
は無言のまま見遣っていた。そこには、何かが差し立てられていた痕跡が残るばかり、肝
心の剣の姿はない。
 宝剣そのものは、ビュートの気紛れでブレイドナイトの手に渡っているのだが、ドロッ
チェがそれを知る由はない。
「……確かに、宝剣はなくなっているね」
 ふむ、とドロッチェが腕を組んだところに、緑色のチューリンに先導されたビュートが
やって来た。この場にはドロッチェの他に、スピン、ストロン、そしてドクのドロッチェ
団が揃っている。
 それを見たビュートは一瞬眉をひそめたが、特にそのことに異論は唱えない。
「おや、ビュート殿一人かい? チナツ殿とダークマター君はどうしたのかな……いや、
それはよいか」
 ドロッチェは再び祭壇に視線を戻す。ビュートの目もそちらに向く。
「夢の泉から流れ出したエネルギーはこの星を循環し、必ずこの地、マジルテを経由して
再び夢の泉に流れ込む。夢の泉は澱んだ力を浄化し、再びエネルギーラインに乗せて夢を
駆出する。今のポップスターはその両方がなくなった状態なのだよ。今、この星は地表に
残るエネルギーの渦と、住人から供給されるエネルギーでその体を保っていると言ってい
い。――エネルギーラインを破壊された星は、徐々に活力を失い、最後には自壊するとい
う説もあるようだね。君の故郷もその手合いなのではないのか?」
「……我々の間では、先達達が悪夢との戦いの末に、星を崩壊させながら辛勝したと言い
伝えられている」
「言い伝えられている、ねぇ……」
 真実かどうかは知らないと、どうでもいいとばかりにビュートは言い捨てた。
「お前はそのエネルギーを奪おうとしている。そのために、スターロッドと宝剣を元の鞘
に収める必要がある、と」
 いいや違うよ、とドロッチェは大げさに頭を横に振った。
「元に戻すのはスターロッドだけでいい。ここには飽くまでジャンクションだ。ジャンク
ションを機能させる代替物があればいい、そしてそれは私の方で用意する」
 ビュートは辺りを一瞥する。彼を案内してきたチューリンは、いつの間にか姿を消して
いた。後には、水晶がぼんやりと照らし出す岩盤が窟を形成するばかりだ。ドロッチェが
言うところの『代替物』は、まだここには運び込まれていないようだ。
 ビュートは一度頭上を振り仰ぐ。そして、「成程」とだけ呟いた。

「さて、本題に入ろうか。スターロッドの具体的な修復はデデデ大王達にやってもらわね
ばならないが、ゼロが大人しく彼らがギャラクティック・ノヴァを召喚するのを座して待
つと思うかい?」
 ドロッチェの言葉を受け、ビュートは右手を顎に添えた。
「ゼロの考えはよくわからん。だが……もう手が打ってあるかもしれない。具体的に形の
あるものならば、破壊すればいい」
「確かに。とはいえ、ギャラクティック・ノヴァは強力な自己再生能力を持つからね。再
び星系の夢の泉を繋げれば召喚できるかもしれない。でも、ゴールへのルートは一つに絞
らない方がいい」
「別の方法で夢の泉を復活させる、か」
「そう。君の故郷は悪夢を掃っているという過去がある。その時はどうしたのだろう。悪
夢を掃う力ならば、スターロッドと同質の力を持っている可能性は高いと思うが、如何か
な?」
 無論前提が伝承ベースの話だからね、信憑性は薄いのは承知の上だ、とドロッチェは付
け加えた。が、ビュートはあっさりとドロッチェの期待を打ち砕く。
「そのような武器や呪法は聞いたことがない。よしんば存在したものだとしても、現存は
していない。現存していれば星が崩壊するわけがない。……つまり、星を維持するための
力を持つ代物なら、代替になる可能性はあるということか」
 トリプルスターのような宝のことか、とドロッチェが口の中で呟く。
 ビュートが言葉を続ける。
「我々はスターロッドというパーマネントなアイテムがなくとも、テンポラリにエナジー
ラインを繋ぐことが出来れば事足りる、ということを踏まえれば、ギャラクティック・ノ
ヴァの星系から夢の泉のエナジーを集め、ロッド状のアイテムに封じ、ポップスターのエ
ナジーラインで増強すればいい。星系から一度に搾取できるエナジーでは足りないのだろ
う? ならば、チャージすればいい」
「そのようなことをしたら、ポップスターがどうなるかは判らんがね。ふ……私達には関
係の無いことか。ドク、今の話は聞いていたね。実現できそうかな?」
「ドリームパワー・コンデンサーみたいなアイテムということですな。必要なエネルギー
量を計算する価値はあるじゃろう。早速取り掛かってみますかな」
 ドクが再びコンソールに向かう。カタカタというキーを叩く音が直に聞こえ始めた。
「しかし、よくもお前がここまで行動を起こす気になったな、ドロッチェ」
 ビュートの言葉に、怪盗ネズミはくくっと喉の奥で笑った。
「君がこうして、私に付き合っていることにも驚きを禁じえないけどね、ビュート殿。ゼ
ロ配下の中では君との付き合いが比較的長いが、私に同調するとは思わなかった」
「便利なものは利用する」
「お互い様さ」

 そこまで言葉を吐くとドロッチェは、「この話もしておこうか」とビュートとの会話を
一端打ち切り、ドクに向かって指示を飛ばした。それに呼応してドクが手元のコンソール
を操作すると、彼が眺めていたモニタが虚空に映し出された。ポップスターのマップの上
に、数個の光点が瞬いている。
 ドロッチェとビュートは、頭上に現れたイメージを見上げた。
「これは……」
「闇の力を持つものの現在地を現している。平たく言えば、ダークマターやゼロ配下のモ
ノの居場所を示しているといったところだね。今、ポップスターにいるゼロ直轄の者はド
ロシア、ダークマインド……いや、ダークマインドのポイントは消えたのだったね。では、
ドロシアと、後は無数のダークマター達だけだ。私やビュート殿は闇に属するものではな
いから、ここには表示されていない」
 この大きな光点はおそらくドロシアだね、とドロッチェがステッキの先でマップを示し
ていく。これは如何にかした方がいい、ともネズミは言った。ダークマインドが消えたの
はこの辺りだ、とオレンジオーシャンとグレープガーデンの中間あたりを指した。
「我々が助力をしたあのタイミングで消滅した、ということか」
 おそらく、とドロッチェは頷いた。
「他の細かな点は、コマンドタイプのダークマターだろう。マジルテにも光点がある、お
そらく君の連れているダークマターによるものだろうね。あの子は戦ったら、意外と強い
かもしれないよ――」
「私が強い……ですぅ?」
 突然、背後から緊張感が微塵も感じられない声が飛んできた。
「おや、君は」
「黒丸ですぅ、ドロッチェさん。いい加減名前覚えてくださいですぅ。ビュートさん、マ
ジルテにはもうダークマターはいないですぅ。どうやら、悪魔の騎士さんの中に取り込ま
れてしまったみたいですぅ」
「悪魔の騎士……バトルウィンドウズの派生か。ヤツはマジルテに?」
 ですですぅ、と黒丸は頷いた。
「ヤツにはマジルテの防衛を任せよう。ダークマターがマジルテから放たれていたことを、
ブレイドナイトに見られている。ここに調査の手が伸びると不味いだろう」
「確かにね。怪しいことがばれているのなら、いっそのこと中に入れさせないのも一つだ」
 ドロッチェの同意を見て、ビュートは悪魔の騎士に入り口を護るよう、黒丸を介して指
示を飛ばす。
「ところで、ビュートさんとドロッチェさんは、さっき何の話をしていたですぅ?」
「うん? 君は戦うと強いかもしれないね、という話をビュート殿としていたんだ」
 ぱちくり、と黒丸が瞬きをした。そして小首を傾げる。
「私、強いですぅ? うーん……ビュートさんが戦えって言うなら、戦うですぅ」
 だとさ、とドロッチェは笑いながらビュートに視線を向ける。剣士は少し唇を歪め、こ
う言った。
「いらん、足手まといだ」
「うぅ〜、酷いですぅ〜!」
 黒丸がぽよんぽよんとビュートに体当たりする様子を尻目に、ドロッチェはおや、と首
を傾げた。
「デデデ城の近くにも随分と大きな闇があるね……ドロシア嬢が捏ね繰り回していた悪夢
の残骸か」
 悪夢という言葉にビュートの体が小さく揺れた。
「ビュート殿は知らないかな? 夢の泉に悪夢が巣食っていたようでね、ドロシア嬢がち
ょっかい出しているところを見かけただけさ。しかし、思ったよりも反応が大きいな」
「ダークマターとのシナジーだろうか。……私が様子を見てこよう」
「うん? それは構わないが、見てどうする」
「さてね。その場で考えようか」
 ワムバムジュエルを使うと告げ、ビュートは踵を返す。黒丸がその背中を慌てて追いか
けていった。

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本文で明記する機会を逸してしまったので欄外で補足。
ゼロが御自ら行動するのを待つという選択肢は期待するだけ無駄だ、
という共通認識が、ドロッチェとビュートの間にはあります。
だから、彼らは自力で道を作ろう(何の)と模索しているわけです。
ポップスターを具体的に侵略し始める前に(←準備期間は結構あったはずなので)、
ゼロに期待してもダメだと実感する何かがあったのでしょうなー。

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投稿日 : 2009/04/13(Mon) 09:03 
投稿者 : あおかび  


まどろみに落ちたわけでもなく、体が疲労したわけでもない。
けれど、彼女はベッドにもぐりながら目を閉じ続けていた。
そして、時折髪の毛をギリギリ通すことすら難しいという程度だけ、わずかに目を開いてはすぐに閉じた。
目が覚めてからはそれの繰り返しである。

つまりは寝たふり、言い換えればタヌキ寝入りである。
彼女のもといた日常では、当り前のように使われていたコミニュケーションツールであるが、
現状においては、誰とも口を訊かないための、そして情報を盗み出すための計略である。

というのも、彼女――チナツは囚われの身であるのだ。
今現在自分の周りにおわすのは、チナツの敵たちである。
タヌキ寝入りをしながら入手した情報をまとめると、ここは敵の隠れ家であるらしい。

もしかしたら自分を助けに来たヒーローがどこかで活躍の機会をうかがっているかもしれないが、
そんなことは妄想するだけ体力の無駄だと彼女は考えていた。
あのキザなネズミはまだしも、無愛想な仏頂面がそんなことをしようと考えるわけがない。
ネズミの方も、何か利益が生じない限りは動いてくれそうにない。

(そんなことを考える暇があるなら、ここから抜け出る方法を思いつきなさいよ――――!
 心のぜい肉なんて、あったって役に立ちはしない)

実際に思考内で、自分で自分に鞭を打つのはなんとも滑稽な光景であった。
そのため、マンガや小説のキャラクターたちの精神構造が気になってしかたがなかった。

とにかく、彼女なりに考えるだけ考え込んだようだが、現実的で効率的な解決手段は毛ほども見つからなかった。

捕虜として捕えられた自分はこれからどうなってしまうのだろう。
敵の情報を少しでも得ようと、あらゆる手段を用いて自分の知識を洗いざらい取り出されてしまうのかもしれない。
ある日教養のために目を通したある歴史書に、特別高等警察』が
自白のために如何なる拷問を用いたのかが書かれていたことが勝手に記憶の水面に浮かんできた。
そこに書かれていた恐怖の記述が、奔流となって記憶の中で暴れ始めた。
まだ何かされたわけでもないのだが、えもいえぬオゾマシイ感覚が体の中を走り抜ける。
体は寒気に覆われていき、冷汗が肌という肌にへばりつく。

目を閉じているため、視界は暗い。
次第にそんな作り物の闇にも耐えきれなくなり、彼女はとうとう双眸を開、い、て、しまっ、た――――――――



「――――おはよう。体は大丈夫?」

暗闇と入れ替わりに一番始めに現われたのは、女の子の寝顔を覗き込む男の子の顔だった。

細かい特徴は違えども、その男の子は自分と同じ『ヒト』であるらしかった。
歳は自分と同じくらいだ、と彼女は思った。
顔つきから考えると、自分よりも幼い様子である。
もっとも、彼の本当の年齢をチナツが知っているわけはない。

真っ白な白衣を着ており、初めて会ったばかりではあるものの、その服装は彼にピッタリだと思わざるを得なかった。
もし、彼が(チナツの中では)今時の格好をしていたら、服に着せられている状態になっているに違いない。
それはそれで、見てみたい気もするのだが。

そこまで妄想、もとい空想を広げた後に、ようやく自分の策略が水泡に帰したことに気がついた。
慌てて周りを見回すも、白衣の少年の他に人影はなかった。
不幸中の幸いである。

「服はずぶぬれだったから、ここの人に頼んで替えてもらったよ。
 残念ながら、持ち合わせがそれしかなかったみたいだけど、サイズはそれでいいかな?」
「…………………………」
「あ、自己紹介が遅れたね。僕はフラービィ。君は?」
「ええと、私は、じゃなくてアタシは、……チナツ」

チナツは自分の名前を吐き捨てるやいなや、「あー、もう」と呟きながら右手を顔にあてて俯いた。
穴を掘っていたら大昔の自分の日記帳や自作の漫画が出てきたような気分だった。

「よろしくね、チナツちゃん」

フラービィと名乗った男の子は、屈託のない笑顔を浮かべていた。
それに対し、チナツはバツの悪そうな表情を浮かべる。
悪戯をしかけて失敗した悪ガキと、それを寛大な心を以て許す構図に似ている気がしないでもない。

「海岸で倒れていた、というふうに助けてくれた人から聞いているけど、何かあったの? もしかして、船の漂流?」
「…………………………」
「空から落っこちてきた、っていうのはどうかな? いや、それはないか」

「提案してどうする」と突っ込みたかったけれども、余計なひと言も出かねないので抑えることにした。

とにかく、こじ開けられないように、全力で口を閉ざすべきだ。
自然と口に力が入ってくる。
まだ足りない、と思うと、さらに入り、
まだこれでも、と思うと、さらにさらに口は固くなり、
まだまだ危ない、と思うと、さらにさらにさらに閉じられていき、
まだまだまだ心配だ、と思うとさらにさらにさらにさらに口は固まっていき、


――――――――ふと、違和感に気がついた。

どうして、彼はこんなくだらないことを質問しているのだろうか。
フラービィから見れば、これは敵勢力の情報を聞き出す決定的なチャンスである。
チナツにとっては、情報を聞き出されるピンチであるのだ。
捕虜を得たら、まずは情報を聞き出す。それが当たり前ではなかろうか。

けれども、彼からはその話をされる気配を感じない。
もしかするも推測するまでもなく、フラービィどころか、ここにいる人たちは、自分をただの遭難者だと思っているのでは――――







「それとも、変な本を読んでたらここに来ちゃったとか、そういう感じかな?」

刹那、血液の流れが固まった。
心臓を長い長い矢に射抜かれた錯覚に陥った。

やっぱり、世の中はそんなに甘くはないようだ。
胸が、苦しくなり、息が、詰まり、目の前が、暗くなり、

カマをかけられただけだという微かな希望を基に彼の顔を覗いたが、真剣そのものな表情からは、都合の悪い証拠ばかり見つかった。

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