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小説の中へ [17]



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投稿日 : 2009/04/15(Wed) 00:30 
投稿者 : tate  


 目の前の少女が動揺した。
 やっぱりそうなんだ……と、フラービィは内心呟いた。
 カプセルJが彼女を連れてきた時に、既に予感はあった。ポップスターには少ない人間、
そしてどう見ても彼女は自分と同じ人種……同じ国に暮らす人間にしか見えなかった。そ
りゃ、確かに髪の毛はオレンジ色で自然な色ではないが、実現不可能なカラーではない。
 そしてそんな人間がここ、ポップスターにいるとしたら、それは本を扉としてこちらに
来る術しかありえない。
「本を読んでいたら、ポップスターに来てしまった。そう……なんだね?」
 チナツは否定も肯定もしない。でももう、間違いない。
「信じる信じないは、君の自由に任せるけど、僕もそうなんだ。変な本を読んでいて、気
が付いたときにはプププランドの花畑の中に倒れていた。多分、チナツちゃんとはルーツ
が同じ……ううん、かなり近いルーツを持っていると思うんだ」
 我ながら不思議な言い回しをしているとは思う。チナツの顔にも疑問符が浮かんでいる。
「変な言い回しをしているけど、それは、全く同じ世界、同じ時間から来た保証はないか
ら。比較的近い過去で分岐した平行世界だったら、文明が同じように発展してきている可
能性は高いし」
「アンタ、何言って」
 口を開いたチナツが咳き込んだ。それほど寒暖の差は激しくないプププランドでも、海
水を被ったまま放置されれば、風邪の一つや二つは引くだろう。
「風邪、大丈夫?」

「――平気よ」
 フラービィの言葉に、チナツの心が揺れた。ほわんと暖かくなるような、くすぐったい
感覚……よくある気遣いの言葉なのに、チナツはなぜだかその一言がとても嬉しかった。
同じ国の人間の気遣いだから? それとも、病により彼女の気が弱くなっているからだろ
うか。
 ともかく、チナツの予想通り彼は……いや、彼らはチナツのことを単なる漂流者だと思
って保護しているらしい。ならば、チナツ自身が健康を取り戻せば、何食わぬ顔で外に出
ることが出来るということだ。そして、ゼロサイドのモノとして尋問を受けることもない。
 ――要するに、余分なことを口にせず、このまま流れに身を任せていれば何とかなると
いうことだ。ならば、フラービィと名乗った少年に、チナツも同じ境遇であることを報せ
ておいた方がいいだろう。
「アンタの言うこと、全部は解らなかったけど、本を読んでいたらこの世界に来てしまっ
たというのは、アタシも同じよ」
「やっぱりそうだったんだ、こんな形で同じ境遇のヒトに会うとは思わなかったけど。も
し、行く当てがないのならこのままここに居ればいいよ。ここのヒト達への話は僕が付け
るから、その辺は心配しないで」
「あ……うん。ありがと」
「どういたしまして」
 さてと、と立ち上がったフラービィが、「そうだ」と思い出したかのように言った。
「チナツちゃん、もう歩き回れそう? 一応ルナさんに回復魔法は掛けてもらっているか
ら、随分具合はよくなっていると思うけど」
「体調は大丈夫だけど。回復魔法……そんなものがあるんだ」
「そう、こちらの世界にはあるんだ。便利だよね。せっかくだから、紹介するよ」
 その服の持ち主でもあるしね、とフラービィはチナツの纏っているワンピースを指差し、
苦笑した。やはり彼から見ても、このセンスには少々の疑問符が付くようだった。

 倉庫から表に出たフラービィは、チナツを伴いMr.ブライトの眠る部屋へ向かった。
通りかかったワドルディが、ルナはMr.ブライトの看病に向かったようだ、と言ってい
たからだ。
「そっか、まだブライトは意識が戻っていないんだね……」
 ポツリとフラービィは呟き、窓の外を見遣る。相変わらず空は明るくなったり、暗くな
ったり、不規則に瞬いていた。
「ブライト……?」
「うん、太陽の化身みたいなヒトだよ。つい先日酷い大怪我をしてね、まだ意識が戻らな
いんだ」
 チナツの呟きに、フラービィが答えた。
 嫌な予感がする、チナツの脳裏で警鐘が鳴っている。でも今更、「やはり紹介は後でい
い」などとは言い出せない。チナツは嫌な予感を抱えつつ、何事も起こらないことを期待
しつつ、フラービィの後に続いて、一つの部屋に入った。
 室内にいたのは、Mr.シャインとベッドに横たわるMr.ブライトの二人だけだった。
意識が戻っていないと言われていたMr.ブライトも、ベッドの上で半身を起こしていた。
「あれ? ルナさんは?」
「ルナ殿なら休憩を取って頂いていますよ。ブライトも意識を取り戻したことですし、彼
女も働きづめでしたから」
 フラービィとチナツの視線が、Mr.ブライトに向いた。彼もこちらを見た。笑顔を作
ろうとした太陽の顔が、一瞬にして凍りついた。
 剣呑な空気がMr.ブライトから発せられる。
 しまった、とチナツが思った時にはもう遅かった。
 Mr.ブライトが叫ぶ。
「お前……俺達の宿営地を襲ったダークマター達の仲間だろう! そのオレンジ色の頭、
見間違えるわけがない。何故ここにいる!」
 ブライト、やめなさい! とMr.シャインが必死になってMr.ブライトを押さえ込
んでいる。チナツが敵性行為を働いていたことに気が付いているのは、Mr.ブライトだ
けのようだ。ぽかんとした顔でこちらを見ているフラービィも、Mr.ブライトを諌めよ
うとしているMr.シャインもそのことには気が付いていない。
 チナツは自分の慢心を呪った。
 何故あの時、「ルナさんを紹介するよ」というフラービィの誘いを断らなかったのか。
 あの仏頂面が、ここにいるモノたちと戦っていることは容易に想像できた。そしてその
戦いに自分も加担した。うろうろ歩き回れば、見知った顔に出くわす可能性が高いことぐ
らい、冷静に考えればわかった。そしてたとえ同じ場所にいても、こちらから動き回らな
ければ、面倒なことが起こる前に脱出する機会も生まれたであろうことも。
 歯をかみ締め、拳を握った。
 右手に指輪ははまっている。だが矢を生み出すための媒体である弓はない。
 選択肢は二つ。大人しく捕まってデデデ大王の尋問を受けるか、なりふり構わずに窓か
ら飛び出すか。……どの道、せっかく知り合えた同胞とはもう懇意ではいられないことに
は変わりがない。でもたった一人、当てもなく外に飛び出すのも、それはそれで勇気がい
る。
 チナツが逡巡していると、不意に右手にあった窓が派手な音と共に叩き割られた。雲で
構成された窓枠と壁の一部も衝撃で四散し、部屋の中に巻き上がった。
 雲の作り出す霧が、部屋の中にいる人々の視界を奪う。
 「何事だ!」と誰かが叫ぶ。たたらを踏んだチナツの腕を、霧の中から伸びてきた手が
掴んだ。そのまま思いっきり引き寄せられ、彼女は何かにぶつかった。
 悲鳴を上げる余地すら与えられず、チナツはウエスト周りをホールドされ、抱え上げら
れた。腰が一番高い位置に、頭と四肢がそこにぶら下がっているという、どう考えても間
抜けな格好に抗議をしようと、自分を抱えているモノを見上げる。
 ――ビュートだった。いつもと同じ仏頂面が、自分を一瞥する。
 違う。わざわざ見上げなくても、引き寄せられた時点で誰が飛び込んできたのかは判っ
ていた。でもあまりに在り得ないヒトの乱入に、頭が考えることを拒否したのだ。
「アンタ何で!」
「喋るな、舌を噛むぞ」
 ビュートはチナツを脇に抱えたまま、壁に空けた穴から外に跳び出した。そのまま、雲
海の中を跳躍していく。
 チナツの名を呼ぶフラービィの声が、どんどん遠くなっていった。

 グレープガーデンの森の一角に着地したビュートは、何も言わずチナツを地面の上に降
ろした。投げ出した、ではなく、ちゃんと足から地面の上に立たせた。
「……ちょっ、ちょっとアンタ! なにアタシの邪魔してんのよ!」
「邪魔したか、それは悪かったな。だが控えめに見ても、あの状況はお前に不味いことに
なっていたと思うぞ。それに俺達の情報をべらべら喋られては不都合だ」
 腕を組むビュートの眉が僅かに寄った。口ではチナツを糾弾しているのに、チナツを心
配する表情を見せたのだ。
 何それ! 馬鹿にしているの!?
 気恥ずかしさと腹立たしさを覚えて、チナツはぷいと顔を背けた。
「そうだ、コイツを海岸で拾ったぞ」
 ビュートが投げてよこしたのは、ドロッチェから渡されていた携帯電話だった。電源は
入っていない。チナツの知る携帯電話と同じように、水に漬かったら壊れるモノなのだろ
うか。
 弓を咥えた黒丸が、ぴゅーんと飛んできた。
「チナツさんですぅ〜。無事でよかったですぅ〜!」
 途中で弓を放すと、黒丸はぽふんとチナツの胸に飛び込んだ。チナツは黒丸の体を両腕
で受け止める。ぽよぽよとした柔らかい感触が伝わってきた。
 雲の隠れ家の方を睨め付けていたビュートが、「移動する」と、黒丸の落とした弓を拾
い上げて森の中へ歩き出した。
 チナツは今一度、雲の隠れ家の方を見上げた。
 彼女と同郷のヒトがいた、純粋に嬉しいことだった。こんなに心が安らいだのは、こち
らに来てからは初めてだったように思う。その彼と、また話をすることは……流石に叶わ
ないか。――それは、すごく寂しいことかもしれない。
「チナツさん、どうしたですぅ?」
 黒丸が彼女の顔を見上げている。なんでもない、と首を振ると、チナツはビュートの後
を追った。
 
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投稿日 : 2009/04/15(Wed) 19:18 
投稿者 : guri  


「だっ・かっ・ら!アイツは敵だ!解ってんのか坊主!!」
 会議の幕はMr.ブライトの怒号によって、唐突に切って落とされた。
「あの人は僕の居た世界に近い……いや、同じ世界の人なんだ。自ら望んで闇に身を投ず
るとは考え難いんだ。何か理由があるんだよ!」
 フラービィが負けじと言い返す。半刻程前、チナツを追いかけようと主張したフラービ
ィを、Mr.ブライトが阻止したのが事の発端であった。
「戦場で対峙した事ないから、その様な事が言えるんだ!」
「私も対峙致しましたが、援護射撃といいましょうか、魔法のような弓技を使って敵の剣
士に障壁を展開しておりました。彼女の援護無くば、我等が落とされる事も無かったかも
知れません」
 Mr.シャインがMr.ブライトの横から言い添える。
「大体な、あいつがお前の同類なら、お前も敵って可能性がある訳だよな。ポップスター
の事に妙に詳しいのも怪しすぎてしょうがねぇ」
 Mr.ブライトの熱い敵意がフラービィへ向く。
「それは……」
 反論しかけたフラービィを、デデデ大王が手で制した。
「いい加減落ち着かんか!熱くてかなわんわい!!」
 Mr.ブライトの放つ熱気が部屋に充満している。真夏のような気温にデデデ大王は汗を
ぬぐった。カービィが涼を求めて窓の近くでのびている。
「ブライトよ、フラービィは幾度となくわしを助けてくれた。わしらの世界に聡い理由も
詳しく聞いておる、心配するでない」
「はっ……」
 デデデ大王の言葉にMr.ブライトが口を噤む。だが炎の勢いは変わらない、口にこそ出
さないが、戦闘能力の欠片も無いフラービィを、デデデ大王が重用しているのも気に食わ
なかった。
「だが、フラービィよ。奴等は追わなくて正解だろう。連戦の被害は大きい、これ以上の
消耗は避けねばならん」
「……わかったよデデデ」
 デデデ大王は心の中で思う。フラービィから聞いた侵入した者の外的特徴……。おそら
くアヤツだろう、追っても誰も勝てまい、と。だがそれを口に出す事は無かった、士気に
関わるからだ。再戦の可能性は高い、対策を立てねばなるまいと心の奥底で身震いをする。
「幸いにしてルナのお陰で、戦列は回復した。だが万能では無いらしい。皆を回復したせ
いか、疲れきって寝込んでおる。皆、頼り切ってはならぬぞ」
 そう行って皆を見渡す。会場にはデデデ大王以下、カービィ、フラービィ、クラッコ、
Mrブライト、Mrシャイン、ペイントローラー、Mrチクタクを筆頭とした親衛隊の面々、そ
して先の襲撃の翌日に帰還したバンダナワドルディが集っていた。まだ傷や体力の回復し
きってない者も多いが、少なくとも起き上がれるだけの元気は取り戻していた。

 話の区切りを見て取り、ペイントローラーが手を上げる。
「陛下、スラッド殿は呼ばなくても宜しいのでしょうか」
 ペイントローラーは、何かとスラッドの事を気にかけていた。デデデ大王は少し渋い顔
をすると口を開いた。
「まだ信用ならんと言い置いたはず。確かにヤツはわし等の事や敵の事について、深く細
やかに知っておった。フラービィと同じような存在――本の迷い子――と定義するが、そ
の可能性が高いと思っておる。だがそれは同時に、先のチナツと同じでもある事を意味す
るのだ」
 デデデ大王は諭すような口調でペイントローラーに向かって話す。
「よってペイントローラーには引き続き、スラッドの監視を命ずる。同時にルナの護衛も
な。あの二人は一緒にいる事が多い、丁度よいだろう」
「はっ」
 ペイントローラーがデデデ大王の指示にコクリと頷いた。
「そういえばメタナイト達が来ておらんな」
「それが……数日前より自分の要塞へ向かったまま戻ってきておりません。会議の連絡は
……えと、その、息子に任せたはずなのですが……」
 クラッコの一つ目があちこちに泳ぐ。デデデ大王の顔がさらに渋くなる。
「仕方ない、メタナイト達には後で伝えるとしよう」
 そう言って、一瞬言葉を切る。皆に声が届き易い位置へと向き直り、息を吸い込んだ。
「よいか皆の者……ダークマインドが滅び、ドロシアも当面の敵では無いと判断出来る。
雲の隠れ家は既に機能が半壊しておるが、ここに集う戦力はいつになく高い。ペイント
ローラーが持ち帰った情報を合わせて考えるに、今こそ我が城と夢の泉を取り戻すべく行
動を起こす時期であると考える!」
「マジか陛下ッ!」
「ようやく、ですね」
「ガルルゥ♪」
 場が色めき騒然となる、ファイアーライオンの雄たけびが部屋に響く。城を取り戻すの
はデデデ大王の部下の誰にとっても悲願であったのだ。
「だが、スターロッドの修復も急がねばならん。夢の泉だけでは何も出来んからな。よっ
て、帰ってきたばかりで悪いが、カービィには再び旅立って貰おうと思う。人選はカービ
ィに任せ……」

……バサッ……

「お待ちを、陛下」
 大の字になって横になっていたカービィの目に、メタナイトが翼を広げ窓から飛び込む
姿が映る、後ろからクラッコJrが泣きそうな顔で追いかけてくるのが見えた。
「メタナイト、遅いぞ何をしておった」
「準備を、しておりました」
「なぬ……?」
「此度のゼロの行動を考えますに、今まで反目してきた者達の復活、そしてスターロッド
の破壊活動、全てが迅速であり計画的です。悠長に星々を回っていては、敵に機会を与え
るばかり。今こそ全軍をもって敵の本陣へ乗り込むべきだと、具申致します」
「それの準備だと言うのか……かなり思い切った策だのぉ。だが、場所の特定にまでは到
ってなかったのでは無かったか?」
「観測の結果からフロリア、もしくはその近辺である可能性が高いのは陛下もご存知のは
ず。観測機器を持って近づく事が出来れば、敵陣の特定も容易であると考えます」
「足は何を使う、今使えるワープスターは一基しか無いのだぞ、それに迂闊に近付いては
落とされるやもしれん」
 デデデ大王の問いに、淀みなく答えていたメタナイトの顔に若干影が走った。僅かの間
逡巡すると、覚悟したかのように口を開く。
「……平時の時より我が要塞の地下にて、オレンジオーシャンに沈んだ戦艦ハルバードを
回収・修復しておりました。それを使います」
 デデデ大王とメタナイトの間に鋭い緊張が走る。デデデ大王の視線が鋭くメタナイトを
穿つ。数秒とも数分ともつかない、短く長い沈黙が場を支配する。先に緊張を破ったのは
メタナイトだった。
「一週間。一週間後には全ての準備が完了致します。参戦出来る方は、それまでに我が要
塞へ。……では、準備がありますのでこれにて」
 メタナイトは、デデデ大王の返答すら待たずに踵を返す。それが明確な独断専行である
事を浮き彫りにさせていた。メタナイトはマントを翼へと変え、飛び込んだ窓から再び大
空へと身を委ねた。

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投稿日 : 2009/04/17(Fri) 19:37 
投稿者 : ヨツケン  


 部屋を照らしていた淡く優しい光が消えて、辺りが暗く成る、窓から見える外は暗く未
だに昼夜が崩壊してる状態である。

「ふぅ…治りましたよ」
「あ、ありがとうございます!!」

 ルナがさっきまで手をかざしてた場所を見ながらそう言うと、その者はお礼を言いなが
ら部屋に入って来た鎖帷子の上にコートを着た青年の横をすり抜ける。

「ルナちゃん、お疲れ様」
「スラッドさん!」

 スラッドは少女の横まで来て座っている少女に手を差し出す、少女は少し照れながらも
青年の差し出された手を取り立ち上がる。

「あ…ありがとうございます」
「後衛を護り、助けるのが俺の仕事だからな、ルナちゃんには色々助けてもらったし……」

 歩きながらスラッドは着ていたコートをずらし、鎖帷子の上から自らの左肩を軽く押さ
える、鎖帷子で良く見えないが、未だに青年の左肩には光線で貫かれた後が傷穴こそ消え
ているが、生々しく残っている。

「大丈夫……ですか?」
「大丈夫、ルナちゃんの回復魔法のおかげで傷痕は塞がってるし、痛みはほとんど無いよ」

 そう言って青年は肩から手を外しコートを元に戻しながら、白い雲の廊下を進む、しか
しルナの心には目の前の青年が光線に貫かれた時の光景が甦り、『護れ無かった』という
感情が雲の様に拡がり頭痛を生み、足が止まり、視界が歪み、全身の力が抜ける。

「スラッド……さん……」
「んっ?」
「……ごめん……な……さい」

 少女は心に巣食った哀しい感情を押さえ切れない自分の身体を前に倒しながら、静かに
小さく呟く。

「ルナ……ちゃん?」

 少女の足音が止んだのを不思議に思い、スラッドが後ろを振り返ると自分の方に後ろを
歩いていた少女の身体が倒れ、蒼い髪が落ちて来る光景が眼に移り身体を直ぐに動かした。 

「ルナちゃん!?……っく!!」

 慌ててスラッドは崩れ落ちて行く少女の身体の膝と腰との下に腕を素早く差し入れると
、しっかりと抱き抱える。

「ルナちゃん大丈夫か?しっかりしろ!!」

 スラッドは抱き抱えた少女の身体を揺り動かし胸に耳を静かに当てる、反応が無い、心
臓の鼓動も一切聞こえない、これは…マズイ……

「とりあえず、どっかに寝かせねぇと……」

 そう呟くとスラッドは少女をしっかり抱き抱えたまま白い雲の廊下を走り出した。

「もう少し、頑張ってくれ……」

そして、ようやく1つの部屋に辿り着くと、少女を優しくベッドに寝かせ、深く息を大き
く吸うと、自分の顔を少女の顔に近付け……

――少女の身体に生気を送り込んだ。

「(頼む……息を吹き返してくれ……)」

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 ふわりとした感覚を感じ、それと同時にルナは目の前の暗闇に気付いた。身体が重い感
じ、目も閉じている感覚がある。

(「そっか……私、スラッドさんの傷痕を見て『あの感情』を思い出してまた倒れたんだ
……ダメだな私……」)

 意識が薄れて行く中の記憶を思い出ししみじみとそう思う。
ふいに、唇に熱すぎる位の『温もり』を感じた、そしてすぐにその『温もり』は『暖かさ』
となって全身に広がる、ごく最近感じたその『暖かさ』に、ルナは一人の青年の姿を思い
浮かべた、銀色の中に赤が迷い込んだ様な綺麗な髪をした、逞しい青年…。

そのイメージが正解かどうか確かめたくなり、ルナはゆっくりとだが確実に、少しずつ目
蓋を開いた。おぼろげな視界に映ったのは……予想通りの、銀色に迷い込んだ様な赤…。

「…スラッド…さん……」
 ぼんやりしながらも名前を呼びかけて、ルナははっきりしてきたその光景に一瞬固まっ
てしまった。

「ルナちゃん……良かった……疲れが溜まって居たんだな……」

スラッドが安心した様に呟くが、ルナはそれどころでは無い。


――顔が…近すぎる……


 ルナが眼を開けた時、二人の顔の距離は5cmも無かった、ルナは顔を赤くしながら頭
を落ち着かせ考えた、近すぎる顔の距離、唇に感じた熱すぎる位の『温もり』、気絶して
いた自分… 

「ルナちゃん……マジで良かった……」

 それらの事から考えられる事は少女の知ってる内で1つしか無かった……少女は顔を真
っ赤に染め……

「きゃああっ!」

 恥ずかしさのあまり、自分でも良くわからないまま、短い悲鳴を放った。

「あのっ、そのっ、えっと……!」
「ルナちゃん、とりあえず落ち着いて;」

 しかし、スラッドがいくら声を掛けてもルナは落ち着く気配が無い、幸い部屋の防音が
しっかりしてるのかさっきの悲鳴に気付いて無いのか誰も部屋に入って来ない。

「……仕方が無い…か」

 一言そう言うと、スラッドは未だにベッドの上で混乱している少女の頭とベッドの間に
優しく左手を差し入れ、自らの眼を静かに閉じながら、少女をゆっくりしっかりと自分の
方に抱き寄せる。

「えっ……」

混乱していたルナがそれに気付きスラッドの方を見て、言葉を漏らした時には――


――二人の唇が重なる様に触れ合っていた……


 あまりの出来事にルナは思わず眼を見開く、自分が今何をしてるのかわからない、わか
らないけど……、唇に感じる優しくも逞しい彼の包み込まれそうな『温もり』に思わずう
っとりと眼を閉じる、それに答えるかの様に彼も少女を更に強く抱き締める……そして、
ゆっくりと再び二人の唇が離れ、二人は眼を静かに開く。

「……落ち着いたか?」
「……はい…凄く…」
「良かった……落ち着いてくれたか……」

 スラッドは少女の頭を優しくベッドに置くと、スッと立ち上がる。

「スラッドさん……?」
「じゃ俺は少し出掛けてくるわ……」
「スラッドさん、待って下さい!!」

 少女が叫ぶ、自分が護れなかったせいで力が無かったせいで再び大切な人が永遠に自分
の前から居なくなる気がしたから……
ルナが呼び止めるとスラッドは立ち止まり、ルナに笑顔で振り返る。

「後、今度からは『スラッド』って呼んでくれ、そしたら何時でもルナちゃん……いや、
ルナの為に飛んで来るから……」
「えっ……?」

 戸惑うルナの横に来てしゃがむとスラッドはルナの蒼い髪をくしゃくしゃにしながら優
しく頭を撫でる……

「じゃ、行って来るわ、ルナ」

 そう言うとスラッドは微笑みながら少女をベッドに寝かし付けると少女の部屋を静かに
後にする、一人残されたルナはベッドに潜り、小さく呟いた。

「スラッドの……バカ……」

自分の心と正反対の事を呟くと、少女は次第に独り静かに深い眠りに落ちた、未だに外は
明暗を繰り返していた……少女の揺れる心を現すかの様に……

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投稿日 : 2009/04/19(Sun) 03:38 
投稿者 : tate  


 突然の乱入者が大空へと飛び去るのを、デデデ大王は険しい顔で見送った。
 メタナイトがもはや独断で動いているのは、誰の目にも……カービィは何も考えていな
いかもしれないが……明らかであった。故に、厳しい顔付きのデデデ大王を目の前に、誰
も言葉を発することが出来ないでいた。
 だがデデデ大王にしてみれば、メタナイトの独断行為は予想していた範疇の事柄だ。彼
を城に召抱えたときから、いつかこういう時が来るであろうことは覚悟していた。

 デデデ大王が引っかかったのは、敵の本陣がフロリア近辺にあるとのメタナイトの言葉
だった。
 フロリアにギャラクティック・ノヴァを召喚するためのエネルギーが流れ込んでいたの
は確かだ。だが、そんな目立つところにゼロが本拠地を置くだろうか。自分がゼロの立場
なら、まずそのような場所に重要拠点は置かない。現に、雲の隠れ家は周到に雲海に隠し
ておいた。
 引っかかるものを感じながらも、メタナイトの力量は信頼している。だから、彼がフロ
リアに何かがあると判断したのなら、その判断は信頼しようではないか。

「カービィ、お前には予定通りワープスターを貸し与える。メタナイトと共にハルバード
で宇宙に向かえ。ワープスターはハルバードに積み込むよう、ワシの方で手配しよう」
「ほえ? それはわかったけど、何でワープスターがいるの?」
「ワープスターがあった方が小回りが利くだろう。最悪お前一人になっても、星を回って
ノヴァを召喚することも出来よう」
「そっか。じゃあボクはメタナイトと一緒に行くことにするね」
 デデデ大王の言葉に頷くと、再びカービィは床の上に転がった。

「他の者については、各人の自由に任せたいが、クラッコ、ブライト、シャインはポップ
スターに残ってもらうぞ。お前らがいなくなるとポップスターが困る」
 言われずとも、と太陽と月は頷いた。雲の親子は、若干目を泳がせつつもデデデ大王の
申し出に承諾する。
「ポップスターに残るものは、原則としてデデデ城奪還戦に参加してもらう。ペイント
ローラーから一通りの報告は受けているが、現在改めて、偵察のブロントバートを飛ばし
ているところだ。ヤツが戻ったところで、作戦を立てることになるだろう。各々、そのつ
もりで今後の行動方針を考えておいてくれ。ポップスターに残る者は、明後日の同じ時間
に、この部屋に集合すること。今後の行動方針を通達する。本日はこれにて解散!」
 そういうと、デデデ大王はさっさと部屋を出て行ってしまった。

---

余談ですが、ブロントバートは先日アイスバーグまで飛んでいったのと同じキャラです。
大変扱き使われてます。が、なんやかんやで飛行ユニットは便利なので、重宝しているの
でしょう。同じブロントバートにしたのは、そんな重要な役割が出来るものがポコポコい
るとは思えないから、というだけ。深い意味はない。


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投稿日 : 2009/04/19(Sun) 12:36 
投稿者 : フラービィ  


薄暗い廊下に白い衣が映える。外が暗くなっても、何故か隠れ家の中は微妙に明るい。
「……やっぱり照明が欲しいな」
ここに来てから何度つぶやいたのかと、フラービィは無駄に記憶を探る。もっとも、思い
出してみたところで何の意味もないことは本人も承知の上だが。
「もう部屋に戻ろうかな……。眠いし」
それと同時に大きなあくびを一つ。隠れ家も落ち着いてきたらしく、寸暇を惜しんで復興
に努力していた者に、睡眠をとる余裕ができ始めていた。自室への廊下をたどりながら、
彼はさっさと寝ることを考えていた。その近くを走り抜けていく人を見たのはその時のこ
とだ。
「スラッドさん、と……ルナさんかな?」
今までの眠気がほとんど吹っ飛ぶ。そして冷静に、追跡を開始した。だが、すぐに追跡が
完了してしまった。雲の隠れ家の、とある一室。
「……ま、眠気覚ましのいいネタかな」
中で何が起ころうとも、外側の様子は変わらない。時間が長く引き伸ばされたような空間
で、ただただ過ぎる時間を見送りつつ、暇を持て余す。そろそろ突撃するかと考え出した
時、かすかに、高い声が響いた。
「……バッドタイミングなんだかグッドタイミングなんだかなあ。どうするよ」
誰にでも無しにつぶやく。
「突撃か、覗き見か、待機か……。答えは決まってるんだけどね」
不用意に入るのはある意味危険。覗くのもばれたら危険。待機もそれなりに危険だが、後
の二つよりは危険度は軽いはず……。と、そんな考えがフラービィの行動を決定した。し
ばらくして、中からスラッドが出てきた。フラービィの存在に気付くと驚きの表情を見せ
る。自然と、フラービィの表情がにやけてきた。
「……一部始終、見させてもらったよ」
勿論、嘘。ただ揺さぶりをかけて、楽しみたいだけである。
「な、ちょ、おい……。まさか……」
予想通りに引っかかる。ついフラービィは声を出して笑ってしまった
「冗談、冗談。でもその反応、何かやったと解釈してもいい?」
「お前な……、そこは自重しておけよ」
「まあ、ばらすつもりはないし、そもそもそんな度胸もないし」
これで何とか笑い話にできると思っていたようだが、次のスラッドの一言で、彼の目論見
は完全に崩壊した。
「そういう問題じゃあねぇんだよ」
ものすごい重圧のかかる言い方。触れてはいけないところに触れてしまったと、フラービ
ィは今更ながら後悔していた。
「……御免なさい」
「……わかればいい。それと、二度とこういうことに首を突っ込むのはやめろ。な?」
それだけを言い残し、薄暗い廊下の先へとスラッドは姿を消した。後に残ったのは、静寂
とフラービィのみ。
「部屋に戻ろうかな……」
スラッドの置き土産のセリフと一緒に自室へと向かう。
「二度と首を突っ込むな、か……」
自分で口に出して繰り返した時、深々と心に突き刺さるような感じがした。足取りが心と
比例して重くなり、それでも何とか自分の部屋にたどり着く。
「どうすればいいのかなあ、こんな時」
元の世界ではほとんど孤立していたような、人間関係を絶っていたような人間。そんな彼
が、人間関係を修復する術を持っているはずもなかった。自身の無知さに、自虐的な笑み
をこぼす。
――駄目だな、こりゃ。
人格が微妙に壊れた感じがする。過去の記憶を探る自分の癖を、いつもの彼なら恨んでい
たかもしれない。
「結局、何しに来てるんだろうな。現実から逃げてきて、ここでも失敗するなんて、ただ
 の馬鹿じゃん」
自然と、涙が出ていた。笑いながらも、頬を伝う雫を彼は感じ取る。温かいような、冷た
いような、そんな感覚が、理性に力を与え、その理性が、彼に冷静さを供給する。
「失敗したんでも、修復できるように努力すればいいんじゃないか。……ここまで自虐的
 になることなかったなあ」
――過去ばっかり見てないで、現実をしっかりと見据えて、打開策を考えなきゃな。知ら
  ないなら知らないなりに、精一杯努力しよう。
後日、しっかりと謝りに行ったのは言うまでもない。

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投稿日 : 2009/04/21(Tue) 23:36 
投稿者 : 百城葛葉   


 ルナの部屋を後にし、フラービィの視界から消えてさらに数歩進んだスラッドはいきなり立ち止まった。
そしてぺし、と情けない音を立てて顔に手を当てると一気にしゃがみこみ…
「〜〜〜〜キッザァァッ;」
…全力で、先ほどの(室内での)自分の行動を恥ずかしがっていた。
(「けっこうギリギリぽかったから直後は気にしなかったのに…うっわ、何やらかしてんだ俺は…!!」)
 ルナを心底心配したのも本音、呼吸ないと思ったから起こした行動ゆえアレは人工呼吸だといえばそれまでだが…「2回目」はそれじゃすまない。
(「…っつか、フラービィませすぎだ…! ッ…と、とりあえず悶絶してる場合じゃねぇ;」)
 はたと『部屋を出た』目的を思い出して深呼吸し、気を落ち着ける。そして立ち上がると辺りを見回した。
(「…クラッコかペイントローラーの力借りてぇんだがなぁ…つか、ルナが倒れたのって多分俺のせいなんだろうなぁ…;」)
 左肩をコートの上から押さえ、痛みではなく苦虫を噛み潰すように顔をしかめる。彼女は、この傷を見てから倒れたのだ。
(「…一応は言ったが、どうせ大将はまだ俺を疑ってんだろうから自由には動けない。…大人しくルナの看病してるっきゃないかな。」)
 そう軽く結論付けたところで、スラッドは見覚えのある…そして探していた姿を見つけた。
遠目だけじゃなく、夜目も利くらしい。夜というよりは暗がりだが。
「お、いたいた。 ペイントローラー!」
「スラッド?」
 聞き覚えのある声で、手招きを混ぜてまで呼ぶ銀色の髪にペイントローラーもスラッドだと気付いて寄っていく。
 その近寄ってきたペイントローラーの両肩に手を置いて、スラッドはため息を一つついた。
「よかった、ちょうどいいとこで見つけた;」
「ちょうどイイ…? というか、私もスラッドがどこに行ったのかと探していたんダヨ。」
「あ〜、そりゃすまねぇ。  …ちょいと大将の伝言とペイントローラー当人へ頼みたいことあんだけどいいか?」
「頼み事? なんダイ?」
 小首をかしげたペイントローラーの方から手を離し、スラッドは真っ直ぐ見て口を開いた。
「…ルナちゃんが倒れた。」
「エッ!?」
「多分回復使いまくった疲労だと思う。ほら、回復手ルナちゃんだけだから、その分の負担が来ちまったんだと。」
「…そういえば、ずっと治療に走り回っていたかラネ。」
 …さっきは思いっきり呼び捨てで呼んでいたが、流石に公衆面前ではツッコミ入れられそうなのでいつもの呼び方をするチキンハートが一名。
 それはともかく。
「今は一応寝かせてるんだけど…こう、疲労に気付けなかったのは俺のせいだなぁとか思ってさ。」
 そういって、スラッドは頭を掻く。
「気付けなかったのは私たちも一緒ダヨ。…それで、もしかして大王様への伝言ッテ…。」
「そ。その事と…後一つ。これはペイントローラーへのと併用な。」
 そういうと、今度は右手をペイントローラーの肩に乗せてにっと笑うとこう続けた。
「んな訳でルナちゃんの看病行くんで、ロブ回収クラッコとよろしく♪」
「Σ何でそうなるンダ!?」
 いきなり言い渡されて思わず反論が上がる。
「…だってロブ重いから最初ッからクラッコの力借りようと思ってたし、俺とルナちゃん除いたらロブのこと知ってんのカービィかお前だけじゃん。」
「…ア〜;」
 そういわれれば、という顔をして、ペイントローラーは少し遠い目をする。
「いや、連れてくのカービィでもいいんだけどよ。とりあえず、この2点大将の伝言頼むぜ。」
「…わかっタヨ。 で、スラッドはこれからどうするンダ?」
「水汲んでルナちゃんとこ戻る。 場所は…部屋から出るときフラービィに会ったからあいつに聞きゃわかるぜ。」
「了解しタヨ。」
 頷いてデデデ大王の方に走っていくペイントローラーを少しだけ見送って、「さて。」と反転したスラッドはボソリと呟いた。
「…水場どこだっけか。」



「会議?」
 いまだ眠りつつ、疲労から微熱が出始めたルナの額に(全力で絞った)濡れタオルを乗せながら、
『会議があるって聞いた?』と部屋に入ってくるなり聞いてきたカービィに聞き返す。
「うん。デデデがね、ボクら皆呼んで今後のこと話し合うんだって。 …スラッドは言われてないの?」
「なんにも。…まず身内メンバーでなんじゃね? ほら、俺結局来たばっかだし。」
「ん〜、そうなのかなぁ…。」
「あ、ここに居たのカイ、カービィ。」
 小首(というか全身)をかしげるカービィの後ろから声がかかり、スラッドもカービィもその方に目を向ける。
そこにいたのはペイントローラー。…割と合う頻度が高いのは見張られているからだけじゃない気がする、とスラッドは思った。
(「気にかけてくれんのはありがたいが、負荷になってねぇかなぁ…。」)
「あ、ペイントローラー。」
「そろそろ集合時間ダヨ。…スラッドはいかないのカイ?」
「俺は呼ばれてないからパス。 ルナちゃんの看病あるしな。」
「呼ばれてナイ? …あぁ、看病あるならしょうがなイカ;  カービィ、いクヨ。」
「うん。 じゃあまた後でね、スラッド!」
 ペイントローラーの後について手を振りながら走っていくカービィに手を振りかえしていたスラッドは、
姿だけではなく声も聞こえなくなるまで待つとルナを見た。
「…ちょっと待っててくれな。」
 サラリと髪だけを撫で、スラッドは立ち上がるとおもむろにコートをめくる。
裏地を静かに探り、内ポケットにあった「何か」を摘む動作をするとするりと黒い布が引き出された。
暗がりにも少し目立つその銀髪を黒い布で覆い隠すと、なれた動きで「音」と「気配」を出来るだけ消し、スラッドは部屋を出た。


 元の世界の話、ではあるが・・・
プププランドに、平和なポップスターにつくまで、スラッド達は星々を渡り歩いていた。
その中には、「船」を見た瞬間に敵意を向ける所もあった。
高度な文明と狡猾なやり口を持つ種族もいた。

特殊攻撃のダメージ増加という『種族的』なハンデのみならず、
動き重視の軽装備により人より若干打たれ弱かったスラッドは、その中で…『あの人』の下で様々な技能を修得していった。
戦い方だけではなく、それこそ『忍ぶ者』のような技能まで。

『気配消し』と『忍び足』…情報収集に秀でた、今まさに実行しているこの2つも、その修得した技能であった。
(「場所の予想はつく。 後は、声を頼りに…」)
本来ならば、こんな隠密行動は…『会議の盗み聞き』など必要はない。…だが、スラッドは気になっていたのだ。
『周り』が…特に、デデデ大王が自分に対してどう思っているかが。

その気持ちの根底に何があるのかをスラッドが知るのは、すぐ先の時の事…。



「だっ・かっ・ら!アイツは敵だ!解ってんのか坊主!!」
 いきなり響いてきた大声に、スラッドは足を止める。
(「…声でけぇって、ブライト;」)
 そうひっそり思いながら、壁の向こう…姿を隠せれる位置に背中を預ける。
その壁の向こう側では…今まさに、そのブライトの大声で会議が始まろうとしていた。
 言い出しのブライトが言っているのは、治療手伝いの間に起きた小さな襲撃…
…後から聞いた名前をもってスラッドが付けた『チナッちゃん騒動』の件。
 剣呑とした雰囲気はあまり好きじゃない、と、話を把握しながらスラッドは思う。
暢気なプププランドの空気にすっかり染まった、とも言えるが、その辺に後悔はない。
(「…つかブライト、その理論だと俺も範疇に入るぞこの野郎;」)
 自分の場合は若干疑われてもしょうがない立場に未だ居る、とは自覚しているが。
そんなことを考えた時、聞こえたデデデ大王の言葉に一瞬意識が集中した。
「まだ信用ならんと言い置いたはず。確かにヤツはわし等の事や敵の事について、深く細やかに知っておった。
フラービィと同じような存在――本の迷い子――と定義するが、その可能性が高いと思っておる。
だがそれは同時に、先のチナツと同じでもある事を意味するのだ」
(「……前例が2名も居るとはいえ、こうも早くバレるか;」)
 「可能性」という言葉を使ってはいるが、おそらく半分ぐらいは確信を持っているだろう。その辺りは声の調子でわかった。
(「…必要時に『賢王』なのは、こっちでもかわらずか。」)
 その辺りに安堵する…と同時に、スラッドは何か『隙間』があいたような感覚がした。体ではなく、感覚でもなく…『感情』の方で。
 その気持ちに気付かない振りをして、『夢の泉の奪還』作戦まで聞いて、『さて戻るか』と思った次の瞬間…スラッドの思考は、凍りついた。

「お待ちを、陛下」

 羽ばたく翼の音共に、自分とは反対方向から飛び込んできた声。
デデデ大王に敬語を使っているという点以外は、声色も、気配も、まったく同じ…。
(「…メタナイト様…」)

 元の世界での自分の上司。
すべてを護れなかった自分に手を差し伸べてくれた人。
…『兄』のような男。

『当人』では無いとわかりつつ、つい、『気持ち』に思考が引っ張られる。

【一週間後、フロリアに進撃する】

 その情報を頭に叩き込み、羽音の主が去ったらしいのを確認するや否や、スラッドはすぐさま無音を徹してルナの部屋に滑り込んだ。
そして壁に背を付け、ずるずると座り込むと同時に右目をグローブを付けた右手で覆いつつため息をついた。
「…ガキか、俺は;」

大将の自分への反応が気になった理由。
途中で気付いた隙間の原因。
そして、膨れ上がったこの気持ちは俗にいう…

「…メタナイト様の声を聞いて、ホームシックにかかるなんてよ…。」

知っている人が多かった。
ペイントローラーは気にかけてくれて、カービィは気にせずに接してくれた。
『向こうに居なかった』人ではあるが、ルナも自分に嫌悪は抱いていない。

…けれど、誰も「スラッドを知らなかった」と言う意味で、彼は『独り』だった。

「…言おう。」
 気持ちに気付いてしまったから。
泣きはしないが、下手をすると気持ちに引っ張られて足まで引きそうだから。
「…後で…少なくとも仮眠後で。」
 それと同時に、デデデ大王の状況に対する「判断材料」を増やすために。
…迷う原因にもなりそうだが、間違った情報で足を引くよりはマシだ。
「…大将とサシで。…出来たらフラービィも入れて。」
 …ルナにも知らせたほうがいいだろうか、と一瞬思った。
けれど…『何か』がそれを引き止めた。

「……嘘と盗み聞きを謝って、『本当の俺の事』を伝える。」
一つ深く息を吸い、自分のスケジュールを確認するかのように、
…眠っているルナに聞こえないように、口の中でスラッドはそう呟いた。

(「…そうときまりゃ、まずは『いつもどおり』をしなけりゃな。」)
 深呼吸を繰り返す。気付いた気持ちはくすぶったまま消えないが、思考が引っ張られないぐらいには落ち着いた。

(「ヘタレるな自分。俺は…『迷って来た』わけじゃない。助けるために…護るために来たんだろうが。」)
 自分にそう言い聞かせながらルナのタオルを取り替えると、スラッドは床に座る形でベッドに寄りかかり、仮眠を取るために目を瞑った。

(「…この世界と、元の世界のダチを護るために来たんだから…。」)

 動揺と看病の反動でか、そう呟いた思考ごとスラッドはすぐに眠りの中に落ちていった。

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