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小説の中へ [24]



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編集者注:ログ[23](前ページ)最後の笹さんの書き込みより、
あらすじを抜き出して本ページ冒頭に置かせていただいています。
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●3行で収まらなかったあらすじ
ゼロを倒すにはカービィを生かした方が良いことに気付いたドロシアは、
マルクの計画に乗り、カービィ側の戦力分散を阻止するため、ハルバード破壊に徹することを決定。
ラブラブステッキの魔力でドック全体に魔法をかけると、
ハルバード内に進入させた絵の具を操り棘へと変質させ、内外から一気に破壊を行う。
三度墜ちた戦艦ハルバードは、遂に飛び立たせてすら貰えずに沈黙するのだった……。


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投稿日 : 2010/03/22(Mon) 18:46 
投稿者 : guri  


キランッ、テレッテテレッテー…………ズガンッ!!

 空気を切り裂く派手な音、虚空から一筋の光が舞い降りる。
「何事だ!」
 デデデ大王は、つんざく音に耳を抑えつつ、部下に問いただす。
「夢の泉にワープスターの着地音!!」
「異常な速度です、我等のワープスターではありません!!」
「デデデ城にソニックブームによる破損!損害軽微!!」
 駆けつけたクラッコ達が矢継ぎ早に報告をする。
「すぐに斥候を出せ、状況を把握するのだ」
「陛下、私にお任せ下さい!」
「シャインか……」
 デデデ大王の側に、シャインが何時の間にか控えていた。アイスドラゴンを見捨てた悔
恨なのか、必死さが感じられる表情でデデデ大王を見つめる。
「いいだろう、だが役目は斥候だ。軽率な行動は厳に慎むように、よいな」
「はっ!!」

 デデデ城から少しばかり飛び、夢の泉に到着すると明らかに空気が違っていた。スター
ロッドを失い、暗く沈んでいたはずの夢の泉。その暗さは既に無く、ほんの少しであるが
輝きを取り戻していた。時折虚空にチリッと蒼白い火が走る。
「何事でしょう、これは」
 遠目に黒く大きな影が動いているのが見て取れる。
「アイスドラゴン!ご無事でしたか!!」
 ダークマターに憑依されているとはいえ、動いている、すなわち生きている。その事実
に心から安堵するシャイン。上空より油断なく近付く。

 スターロッドの台座、夢の泉の中央にアイスドラゴンは居た。その脇にワープスターが
フワリと浮いている。そして、一人のフレイマーが居た。蒼白い炎をゆるやかに噴出し、
それが粒子となって上下にゆらりと立ち昇っている。
「ケビオスはお怒りです……急がなくては」
フレイマーはシャインに気がついたようだ。
「あなたは……この星の住人ですね。星のカービィか統治者の方を呼んできて頂けません
か?」
 敵か味方か、害か無害か、シャインが頭を巡らせる。カッターを油断なく構え、問う。
「陛下を無闇に危険に晒す訳には参りません、まず貴方が何者であるかを……」

ガーオッガオッ

 シャインの声を遮り、咆哮が響いた。空中のシャインの姿に気がついたアイスドラゴン
が嬉しそうに飛び跳ねる。
「アイスドラゴン!貴方憑依が解けてるのですか!?」
「彼に憑いていた闇は浄化しました、傷も癒しましたので心配の必要はありません」
 フレイマーが穏やかに言う。
「悪夢の残照も浄化しておきました、警戒されなくて大丈夫です」
「……本当に貴方は何者なのです」
「申し遅れました。私はケビィ、ケビオス夢の泉の代理人です」


半刻後――
「本当に様変わりしたものだな……」
 感心したように周囲を見渡すデデデ大王と、移動手段に使われたクラッコ、それにシャ
インの3名が夢の泉に揃っていた。
「お主がケビィか。わしがポップスターで大王をやっているデデデだ」
「お会い出来て嬉しいです、デデデ大王」
「うむ。ケビィとやら、とりあえず話を聞こうか」
 鷹揚に構えるデデデ大王、しかし視線は間断無くケビィと周囲を警戒している。
「ミルキーロードに連なる八つの星。我等は相互補完の関係にあります。ポップスター夢
の泉が機能不全になりましたので、私が派遣されました」
「ふむ……ならば何故今なのだ、スターロッドが砕かれてから結構日も経っておる」
「本来ならば隣星であるフロリアが、ポップスターのフォローに入るはずでした。しかし
闇の手先である鼠達に力を奪われ、衰弱したのです」
 鼠……ドロッチェか。デデデ大王の脳裏にドロッチェのニヒルな顔が浮かび、げんなり
とする。
「現在そちらのカバーに、アクアリスとスカイハイが対応しております」
「成る程、それでケビオスから来たと言う訳か」
「また、ノヴァが破壊されたのも大きな損害でした」
「なぬっ……ノヴァが!?」
「先日未明、唐突に反応が消滅しました。残骸すら残っていなかったので概要すら不明。
そちらの対応に星々の力が割かれてしまったのも、対応が遅れた原因です」
ケビィの言う事が事実ならば、随分と我等は空回りしていた事になるな……。デデデ大
王は内心自嘲する。
「まだ用件を聞いてなかったな、言ってみろ」
「私の役目は夢の泉の復旧。及び星のカービィ殿へゼロの討伐を依頼、そして協力です」
「わしは知らんのにカービィは知っておるのか……」
 些か憮然とした表情で、デデデ大王が呟く。
「はい。星のカービィ殿は、我等に願いを捧げてくれた時より知っております」
「二つ聞きたい、スターロッドの破片を集めてあるが役に立つか?それとゼロの居場所を
教えて欲しい」
「それはとても助かります、大幅な時間短縮となる事でしょう」
ケビィが一瞬だけ言いよどむ。
「ゼロの居場所は分かりません。こちらの世界に居ない者は探知出来ないのです」

「お困りのようですね」
 ステッキをヒュンヒュンと回し歩いてくる鼠一匹。シルクハットのツバを持ち軽く一礼。
「お主は……ドロッチェ!!」
「ゼロの居場所を知りたくはありませんか、陛下」


-----


【ケビィ】
ケビオスの夢の泉の代理人、
夢の泉が動けないため生み出された分身体である。
分身体とはいえ人格は存在しており、ケビオス夢の泉より全権委任されている。
厳密には別物だが、情報を共有しているので=で結んでも何の支障も無い。

外見は住人を模したポップスター型。
ヒューマノイドの精霊や神々が、人間型であるのと同じ理屈である。
フレイマーと同型であるが、紅ではなく蒼の炎を纏っている。
マターを焼き払ったり、傷を癒したりと結構便利な聖炎。
ホットヘッドやバーニンレオ等ではないのは、本人曰く「飛べた方が便利」だそうな。

強さとしては、弱ったナイトメアや雑魚マターを浄化するのが限界。
上位マターには本体であるケビオス夢の泉でも対処出来ないので、
同じくケビィも手も足も出ない(元から無いケド

ルナと同様に(それ以上に?)闇の居場所を探知する事が出来るが、
ドロッチェやビュートといったノーマルな者達は把握出来ない。
お陰で、フロリアが気がついたら死にかけていた。

もしかしたら同僚に、ポップ君とかアクアさんとかメック氏とか居るかもしれない。


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投稿日 : 2010/03/25(Thu) 01:08 
投稿者 : tate  


 ドロシアが退散してから一晩、彼女に破壊された要塞の状況を掴むのに右往左往してい
たのも未明の話である。太陽が完全に地平から顔を見せた今は、破壊された要塞の機能を
取り戻すべく、徐々に後片付けに手を付け始めた所だった。
 メタ・ナイツの指示で瓦礫が一つ、また一つと取り除かれていく。

 その中、カタパルトデッキではメタナイトが渋面を作っていた。彼の視線の先には、ド
ロシアの攻撃で蜂の巣にされたハルバードが横たわっている。その周囲を走り回る部下の
姿は、今のメタナイトには多分見えていないだろう。
 傍らに控えているアックスナイトは紙の束を片手に、若干顔を引きつらせながら、それ
でも淀みなくそこに記されていることを読み上げていく。
「――続いてハルバードの損傷状況ですが、外装はおよそ50%、ウィングも7割以上が焼
失しています。加えてリアクターおよび二連主砲はほぼ全壊。主砲は予備に載せ替えれば
済みますが、問題はリアクターです」
「復旧までにどれぐらい時間が掛かる?」
「ウィリー達の運動エネルギーの変換装置が全く使えなくなっておりますので……」
「代替はないのか?」
「残念ながら。予備を開発するほどの時間はありませんでした」
「要するに、一ヶ月二ヶ月は軽く掛かるということか」
 動力源か、痛いな……と呟いたきり、ぷつりと言葉を切り口を閉ざしてしまった主の姿
に、アックスナイトは恐々とする。ハルバードが破壊されたのはアックスナイトのせいで
はないし、メタナイトが不可抗力の出来事のことで他者に八つ当たりをすることはないこ
とも解っている。
 が、デデデ大王に対して大見得を切ったメタナイトの面子が丸潰れであることには変わ
りがない訳で。
 歯痒い、自分に三日間でハルバードを元通りに戻す力があればいいのに。
 もんもんと物思いに沈んでいると、
「ブレイドとソードの二人を呼んできてくれ」
 とメタナイトに命じられた。

「ブレイドナイト、ソードナイト、推参致しました」
「我々をお呼びとのことですが」
 間もなくカタパルトデッキにやってきたブレイドナイトとソードナイトは、海風にマン
トをたなびかせながら立ちつくす仮面の騎士の背に敬礼する。
「我が要塞の状況は既に解っているな。お前達は陛下の元に戻り――陛下に状況を報告し
てくれ」
「というと……」
「四日後の出撃は……」
「無論、現状では不可能だ。だからその旨も含めて、だ。カービィを始め、陛下の元から
こちらに出向いている者にも、今後の予定は白紙に戻すのと共に、陛下の元に戻るもここ
に留まるも各人に委ねる旨を伝えよう」
 背中を見せたまま振り返りもしないメタナイトの様子に、ブレイドナイトとソードナイ
トの二人は内心涙を流していた。お労しやメタナイト様……ドロシア、許し難し! 陛下
には出来るだけさりげなく、かつ何事もなかったかのようにひっそりと報告しよう、と互
いの意図をアイコンタクトで確認する。
「ではメタナイト様、我々は雲の隠れ家に帰還いたします!」
 びしっと再び敬礼を決め、オレンジオーシャンの要塞を後にしようとした二人は、要塞
の正門で駆けてきたトライデントナイトに呼び止められた。
「良かった、間に合った間に合った。ついさっき連絡があったんだ、アンタらの帰る先は
デデデ城になったそうだ」
「ということは、城の奪還戦は成功したと」
「うーん、万事が上手くいった訳じゃねえみたいだけど、概ねそんな感じらしいぜ。じゃ、
伝えたからな」
 必要最低限のことだけ言うと、トライデントナイトは慌ただしく要塞内へと戻っていっ
た。
「ソード、概ねとは一体どういうことだろう」
「戻って自分の目で確認するしかないな」
 若干の疑問符を伴いながら、ブレイドナイトとソードナイトの二人はオレンジオーシャ
ンを後にした。

 *

 オレンジオーシャンから離脱したドロシアは、夜の帳に覆われた空をふらふらと宛もな
く彷徨っていた。
 何処かに身を潜め、ハルバードの攻撃で受けた傷を癒さなければ……彼女の力が弱まれ
ば弱まるほど、マルクに体よく利用されて終わってしまうという観念が心の中で膨らんで
いく。唯でさえアイツには自分の力の一部が奪われてしまっているのだ。そんなのはまっ
ぴらゴメンよ! と自身を叱咤したのは何回目だろうか。
「ヘイ、ヘイ、ヘーイ! そっちの首尾はどんな感じかい?」
 癇に障る声が頭上から響いてきた。キンキンと鼓膜に突き刺すその声音から、声の主が
どんな表情をしているのかが容易に想像できて、カチンときた。ドロシアはわざとらしく
舌打ちをしてみせる。
「アタシがヘマをするとでも思ってるの? んなわけないでしょ。あんたこそこんな空の
上で何をしてるのよ、マルク。ゼロの元に行ったんじゃなかったの?」
 我ながら馬鹿馬鹿しい問いを投げていると自覚しつつ、悪態を吐かずには居られない。
 案の定、マルクは声高に笑い始めた。そしてドロシアの周りをぐるぐると一頻り飛び回
ると、彼女の正面でぴたりと止まった。
「ドロッチェのアジトを突き止めたのサ」
「はあ? あんなネズミのアジトを突き止めてどーすんのよ」
「味方に引き入れるのサ。味方の数は多い方がいいでしょ〜よ」
「増やしたいのは味方じゃなくて、あんたの手駒でしょ」
 突き放すように突っ込みを入れるが、ドロシアの皮肉を込めた言葉もマルクは軽く笑い
飛ばす。
「アキャキャキャキャ! モノは言いようだね、ドロシア。ボクはキミの味方サ、そして
キミはボクの味方をせざるを得ないのサ」
 心底愉快そうに空を舞う魔術師にドロシアは鼻白む。
 そうよマルク、確かにあんたの言う通り。でもそれはアタシの場合。
「あのネズミが簡単に、アンタに与するわけないじゃない」
「キミとボクとがそろって頭を下げるってのはどう?」
「バッカじゃないの。その程度のことで、あのネズミが納得するわけが」
 不意にマルクが距離を詰めた。咄嗟に身を引いたドロシアの目の前で、それは不敵に微
笑む。
「ドロッチェが納得する必要はないのサ。どんな手段を用いてでもアレに一言、『手を組
む』と言わせればいいのサ」
「何よそれ」
「ドロッチェは自分の言葉に縛られるタイプなのサ。一度口にしたことは、無意味に反故
にはできないってね。プライドが高いのは面倒だね〜」
 成程、発言を盾にするということか、相変わらず悪知恵だけは働く。
 だがマルクが監視すべき駒が増えることは、必然的にドロシアに対する注意が少なくな
る。彼女にとっても悪い話ではない。
 あんたに任せるわ、とドロシアは端的に肯定の意を伝えた。

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投稿日 : 2010/03/26(Fri) 16:31 
投稿者 : あおかび  


(なんとも奇妙な寝心地だった……)

ビュートが目を覚ますと同時に、カプセル型ベッドの透過ガラスが独りでに開く。
そして、ビュートは何の気なしに体を起こしたが、そこでようやく違和感に気がついた。

(体が、思ったとおりに動いている? 痛みもない)

床についている右手、そこから伸びている右腕をまじまじと見つめる。
あれほど酷かった傷は、今や跡形もなく治癒されていた。
衣服は未だ生傷が絶えないが、節々にあった痛みもとうの昔に消えてしまったような感じである。
カプセルから降りて、自身の両足で体を支えながらしっかりと立ってから、体が完全回復したことにようやく気がつく。

(あのネズミも役に立つところはあるのだな)

平常より腰が軽い。
目をやったところ、刀の鞘が掛けられていないようだった。
武器を奪われたかと疑ったが、カプセルベッドの傍らにその姿を見つける事ができた。
即座に手に取り、中を抜き出してみる。2つとも元のままであり、細工された形跡は見当たらない。

(いや、ドロッチェのことだ。見破れない細工を施すぐらいは容易いだろう。しかし)

仮にそうだとしても、見破る術のない現状、それに思考を巡らすのは無意味である。
それに、ドロッチェの喉元を突こうとでもしない限り、そのような細工は効果を発揮しないことだろう。
何か付いているかもしれない、という可能性があるのは少々気持ち悪いが、あくまでその程度。
剣の性能が落ちたということではないのだ。敵を斬るぐらいなら問題あるまい。

ふと切っ先を見ると、そこにはダークブラウンの髪とライトグレーの瞳が映し出されていた。
それだけなら驚くに値しないが、かつてこれほど鮮明に輝いていたのはいつだったが。
おそらく、自分が眠っている間に手入れが成されたに違いない。

顔を変えないまま、ビュートはそれぞれの鞘をいつも通り腰に掛ける。
その後、何を血迷ったか居合いの要領で太刀と小太刀を一瞬のうちに抜きだした。
空気を切るやいなや鋭い風が舞い、刃が光を受けて輝く。
危険が迫っているわけでもないが、その姿勢のまま剣士はしばらく硬直していた。
その様は、彼の肉体のみならず、まるで周囲の時間が止まってしまっているようだった。

(なるほど、悪くはない)

そう簡潔に感想を思い、両手に握った刀を鞘に収めようと両腕をおろそうとした――が、

「朝っぱらから何物騒なことしてんの? 中学の馬鹿男子みたいじゃない、恥ずかしい」

殺意と言うには言い過ぎた敵意を感じ、声の主の元へ振り向いた。
そこには、食事を載せたトレーを持った生意気な少女の姿があった。





「あんたって何でも食べるわね。好き嫌いとかないの?」
「食事は食するだけのもの。そこに現を抜かしている者の考えが私には分からない」

「人生の9割を損しているわよ」とぼやきながら、チナツはニンジンとピーマンを別の皿へ除けながら、野菜炒めを口に運んでいた。
野菜炒めを含め、ビュートはもう少しで完食するところだが、彼女の分はまだ半分ほど残っている。

「あーもー、なんで野菜とか魚ばかりなの。唐揚げとか串カツはないわけ!?」

チナツの叫びなどどこ吹く風か、ビュートは黙々と次の皿をたいらげた。
そして全ての皿が綺麗になると、チナツは「早っ」と感想を漏らす。

「なんでそうやって黙りを決め込んでいるの。
 あんたみたいなヤツをなんて言うか知ってる? 根暗よ根暗」
「九官鳥に何を言われたところで、私は何も感じないのだが」

目に角を立てながら、チナツはフォークを口に運ぶスピードを速めた。
やがて、「ごちそうさま!」と感謝とは縁遠い尖った声が発せられたが、皿にはところどころ残飯があった。
それから、チナツはトレーに使い終わった皿を集めて席を立とうとしたのだが――――

「貴様は、これからどうするつもりだ?」

寡黙な剣士に呼び止められ、チナツは足を止めた。

「そうね、台所をやったら弓の練習するつもり」
「訓練か」
「そうとも言うわね。動く標的に矢が当たらないって言ったらドロッチェが作ってくれたの、練習場を。
 おかげで少しは前よりは戦えるようになったかも」

そうか、とビュートは声に出さずに納得していると、今度はチナツから質問が飛んできた。

「黒丸はどうしてるの? ずっとあなたと一緒にいたんじゃ……」
「途中からははぐれたが、ここへ来てから再会した。もっとも今は仮死状態だが」
「カシ? カシってまさか、仮死状態のこと!?」

まるで我が事とでも言わんばかりに、チナツは落ち着かない様子だった。
それを傍目に、ビュートは昨日――カプセルベッドに寝かされるまでに、ドクから聞いた話を思い返していた。


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「君にまとまわりついていた小さなダークマターのことかね? それについてはこちらを見てもらおうか」

ドクに案内された場所で目に入った物は、水槽のような透明なケースに入れられた黒丸の姿だった。
周りには使用途どころか例えとして適当な物すら思い浮かばない、仰々しい装置が並べられていた。
目を回しているまま、呼吸すら止まってしまったかのように動き出す様子はなかった。
ビュートの表情は依然として変わらなかったため、それを確認したドクは説明を始めた。

「この子は今、仮死状態にあるのじゃ。
 なあに、心配はいらんよ。周りの気温を極端に下げてこの子の時間を止めているだけでの。冬眠と似たような物じゃ」

そう言われてから改めて観察すると、まるで生きた氷の彫像のようだった。
とは言え、黒丸の体に霜がついているわけではない。
ケースにも霜が付いていない所を見ると、余分な水分は全て蒸発しているのだろう。
もっとも、ビュートはそこまで考える事ができないが。

「というのもな、この子はダークマター、つまりゼロと通じている可能性はなきにしもあらずじゃ。
 わしらは表向きゼロと結託しているが、隠し通したい事はもちろん誰にでもある。
 だから、君がここに来る前に予め捕獲し、このような形でここにつれてきた。
 しかし、この子の体――おっと、ダークマターの解析が終わってからの処分は考えていないがな。
 まぁ、解放するにしてもここに関する記憶は削除するつもりじゃ」

ふうん、と大抵は聞き流すも、ビュートにとっては一点だけ引っかかる箇所があった。
つまり、ビュートが助けを求めようが求めまいが、結局は自分もここにつれてこられる手筈だったに違いない。
しかし、それは今となってはどうでもいいことである。
それについて考える事をやめ、ビュートは別の質問を投げかけることにした。

「あの魔術師――マルクに対する切り札はあるのか?」
「それはどうしてじゃ?」
「あのドロッチェがそう簡単に他人と手を組むとは考えにくい」
「ほぅ、なかなか鋭いのぅ。結論から言えば――ある。
 魔術師が魔法を使うには、何かしらの方法で生み出したエネルギーを実体へ変換させる必要がある。
 他には、エネルギーを一点で固め、それにとある方向への力を加えて遠距離攻撃、ということもできるようじゃ。
 少なくとも、ワシはそう踏んでおる」
「つまり、どうすればいい」
「エネルギーの具現化、それと凝固や力の伝導を封じれば良いのじゃよ。
 それを実現する装置は以前から完成しておってな。これさえあればどんな魔術師も一網打尽じゃよ」

ビュートにはうまく整理することができなかったが、とりあえず理由あっての同盟だということは理解した。
マルクが都合の悪い方向へ動くようになったら、その装置とやらを作動させればよいらしい。
なるほど、狡猾なネズミが考えそうなことだ。
そして、自身の発明が有効に使える様子を想像したのかどうか、目の前の老ネズミの顔は十年ほど若返ったようにみずみずしくなっていた。


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「安心しろ、とあの髭をはやしたネズミは言っていた。『トウミン』のような物だと」
「……それじゃ、黒丸は死んではないのね」
「そういうことらしい」
「……よかったぁ」

またしても、我が事のように安堵のため息を漏らすチナツ。
それを目にしたビュートは首を傾げる事はしなかったが、彼女が何を考えているのか掴む事はできなかった。





ほぼ同時刻。
話は巣穴の別の部屋に移る。

「誰だよこんなに汚したのは……」

尖ったサングラスをかけた黄色いネズミ――スピンは不満な声を漏らしていた。
その傍らでは、巨体が目印の青いネズミ――ストロンが汚れた壁をごしごし拭っていた。

「ストロン、もっと力を入れて」

声には多少刺々しい物が含まれている。
無理もない。この汚れはいくらぬぐったところで全く落ちやしないのだ。
この部屋だけではなく、他の部屋でも同じような状態になっていたと考えると、ため息を吐かずにはいられない。

「ドロッチェ様が出かけているこんな時に限って……」

しかし、見れば見るほど変な汚れだとスピンは思った。
色が気持ちの悪い具合に混ざった絵の具のような汚れなのだが、ここの団員で絵を描く者は一人もいない。
となると、ドクの作った変な発明品が生み出したものだろうか。

よいしょ、よいしょと力を入れながら擦ってはいるものの、絵の具は一向に落ちる気配を見せなかった……。

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投稿日 : 2010/04/07(Wed) 15:46 
投稿者 : guri  


「ReADy……」
 ドロッチェ団のすあな近くの森の影。静かな湖畔の片隅にソレは蠢いていた。
「ねgいを
    ひとつだkkk、、」
 赤色、黄色、茶色に紫色……極彩色の絵の具に汚れたマルクがふらふらと動いている、
その眼は明らかに正気の色を保っていなかった。近くにあった大木に目をつけると、おも
むろに頭を打ち付ける。ズシャッと鈍い音が響き、ツイジーの群れが樹から羽ばたき出す。
「くぅ、きつくなってきたのサ」
「み〜っけ、こんな所で何やってるのよ」
 ふって沸いた陽気な声に、苦悶の表情がさらに歪む。
「ネズミとの交渉は上手くいったの?……って何か変ね」
 コイツに今のボクの状態バレたらどんな事態になるやら。爆笑される?力を奪い返され
る?どっちも全力で回避ッ、振り向くときはゆっくりとにこやかに営業スマイルでっ。
「ド、ドロシア。よくココが解ったのサ」
「あんたの体の一部は私なんだから、居場所ぐらいすぐ解るわよ」
 さらりと言うドロシアに、マルクは思わず絶句する。
「で、何なのこの惨状は。草木は赤と黄色に染まってるし、池が緑と紫のマーブル模様を
描いてるし。自然は大事にしましょう、ってあんた教わらなかったの?」
「キミの絵の具なパワーの特訓をちょっとね、全くキミに似てじゃじゃ馬で困る……」
ごぷっ
 喉から熱いものが込み上げる、甘くて苦い絵の具の味。
「い、一発芸……」
『虹』
 ピューッと吹き出した7色の液体が、綺麗な放物線を描く。
「ふ〜ん……」
 ドロシアはマルクをまじまじと見つめると、思いついたようにニコリと笑う。
「マ〜ルク」
「な、なにサ……」
 ゆらりと距離を詰められるが動く事が出来ない。唐突に右手で首根っこを勢い良く抑え
られる。体重をかけマルクの体が地に伏せる。
「がっ……」
 ちぇっ、やっぱり後者か。力が分離しかけてる今の状態じゃ打つ手が……。

――言う事聞いてあげなさぁぃ――

 何かに囁かれた気がした、そして掴んでいた手が緩む。
「な……何をしたのサ」
「なーんも?それよりこれ以上私の絵の具で、美しくない絵を描かないでよね」
 ふと気がつくと、体が楽になっていた。力が失われていく感覚が消えている。
「ドロシア……」
「なによ」
 マルクは一瞬口篭もり、明後日の方向を向いて言う。
「ありがとなのサ」
「何もしてないってば。つまんない芸をしてるから殴っただけよ」
 ドロシアも明後日の方向を向いて言う。
 マーブル模様の池から、スリッピーがちゃぽんと跳ねた。

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投稿日 : 2010/04/08(Thu) 03:09 
投稿者 : tate  


 唐突に姿を見せたドロッチェの言葉に、デデデ大王は我が耳を疑った。
「ゼロの居場所だと?」
 深紅のマントをまとった盗賊ネズミは、夢の泉の傍らに浮かぶ蒼いフレイマーに物珍し
げな視線を向けたがそれも刹那、すぐにデデデ大王に視線を戻す。
「そうだとも、大王様。君達にとっては喉から手が出るほど欲しい情報ではないのかな」
 そう言うと、ドロッチェはステッキの先をデデデ大王に向けた。
 最初の取って付けたような慇懃無礼はあっという間に影を潜め、デデデ大王がよく知る
すかした態度に変わる。いけ好かないネズミだ、と拳を強く握りしめる。
「ふん、何を言い出すのかと思えば。お前はゼロの手先だろうが、そのような者の妄言に
耳を貸すとでも思ったか」
「妄言! ……クククッ、これはなかなか用心深い大王様だ。だが妄言でもブラフでもな
いよ。私はどちらかと言えば君達に近い存在だ。闇から生まれたものにより、近しいモノ
が窮地に陥っていたら塩を送っても罰は当たらないと思わないかな」
 余裕しゃくしゃくで笑みを浮かべるドロッチェを、デデデ大王は苦々しく睨め付けた。

 確かにネズミから情報が得られれば、ケビィらの協力も得られる今、こちらから打って
出るだけの状況が整う可能性が高い。だがこれは罠かもしれない、デデデ大王達を一網打
尽にするための。

「ネズミよ、お前は何が欲しいのだ」
 眉を読もうとするデデデ大王を見て、ドロッチェは哄笑を返してきた。
「塩を送った見返りなど求めていないとも。では、ハイパーゾーンの存在する座標を教え
よう。その真偽は大王様が御自ら調査して判断してくれたまえ」
 手掛かりさえあれば、ゼロの居場所も掴めるのではないかな? とネズミが笑う。
「だがどうやってハイパーゾーンに侵入する」
 デデデ大王の問いに、ドロッチェは肩を竦めてかぶりを振った。己の頭で考えろ、とい
うことか。
「ゼロをハイパーゾーンから誘き出す、という手もあるがね」
 クククと笑いながらもドロッチェはハイパーゾーンの座標を伝えると、軽く地面を蹴り
空へと飛び去った。

 *

 デデデ城を後にしたドロッチェは、ふとポップスターの空を飛ぶダークマターの一団に
出くわした。空を覆い尽くし大地に黒い影を作る程の大群に、眉を顰める。ポップスター
に残っているダークマターをかき集めてきたのか、はたまた新たに送り込んできたのか。
 一団を率いていたのは、白い正二十面体。各面に開いた赤い目玉がぎょろりと動き、ド
ロッチェを見た。
 ドロッチェが頭を悩ますまでもなく答えは出た。ここに至るまでポップスターでミラク
ルマターを見たことはないし、話に聞いたこともなかった。おそらく何らかの理由でゼロ
が新たに送り込んできたのだろう。理由か……探りを入れてみるか。
 手にしたステッキをくるりと一回転、シルクハットを被り直してドロッチェはミラクル
マターとの距離を少し詰めた。
「やあ。ミラクルマターとは珍しいね、新たにゼロ様に使わされたのかい?」
 じととドロッチェを睨め付けていた目玉達は、暫くすると思い思いの方向へと視線を向
ける。
「ドコゾノねずみガ、好キ勝手ヤッテイルヨウデナ。貴様モ、ソノヨウナねずみヲ見ツケ
タラ、ぜろ様ニ報告スルコトダ」
 ミラクルマターはそう語ると、ダークマターの群れを率いてどこぞへと飛び去っていっ
た。

 気が付かれたな、とドロッチェは薄く笑った。しかし、その代わりがミラクルマターと
は。ドロッチェが与り知らぬ所で、闇が動き出したと考えるべきか。
 ゼロはこれまで局面でもドロッチェやビュートといった闇の眷属とはさほど関わりが無
い者を登用してきた。それは純粋に、夢の泉のような光のエネルギーにはダークマター達
が直接干渉できないからという理由もあるが、それなりにドロッチェ達を認めていたから
だろうと考えていた。
 が、ここに来てのミラクルマターの投入。
 これはゼロが腹心……闇の眷属の力のみでポップスターを制圧しにかかった、つまりは
舵を大きくきったと考えていいだろう。

 ミラクルマターの飛び去った方向を睥睨していたドロッチェは、ふいと向きを変え、巣
穴へと急いだ。


 巣穴に戻ったドロッチェを最初に出迎えたのは、モップとバケツを手にちょこまかと走
り回るスピンだった。
「親分、お帰りなさい! 聞いてくださいよう! アジト中に変な絵の具が一杯付いてて
ですね」
 ぴょんぴょんと小さく飛び跳ねながら言葉を矢継ぎ早に繰り出すスピンを、ドロッチェ
は手で制する。
「その話は後で聞こう、少々想定外の問題が発生していてね。マルクは何処にいる?」
「マルク? さっきドロシアと二人して外から戻ってきて、ドクの研究室の辺りをうろう
ろしていたような……呼んできます?」
 いや、とドロッチェはかぶりを振った。
「私の方から出向こう。スピンはビュート殿に会議室に来るように伝えてくれるかな。
……私達もそろそろ腹をくくらないといけないようだ」
 腹をくくる? と首を傾げるスピンに微笑を返しつつ、ドロッチェはドクの部屋へと足
を向けた。
 途中でマルクを見つけたドロッチェは、道化の首根っこを捕まえて無人の部屋……ドロ
ッチェ団がミーティングに使っている会議室へと、ドロシア共々放り込んだ。マルクの口
の端に僅かに絵の具が付着しているのが見えたが、そこには言及しない。
 そして間もなくやってきたビュートと、彼にくっついてきたチナツを一瞥すると、役者
は揃ったとばかりにドロッチェが話し始めた。
「ゼロが私達の動きに感付いたようだ」
 端的に、核心を最初に述べる。
「なっ……ど、どういうことなのサ!」
「デデデ城から戻ってくる道中、ダークマターの一団に出会したよ。その一団を率いてい
たのはミラクルマターだった。これまでポップスターにミラクルマターが投入されたこと
はなかっただろう? 私達に代わり、ポップスター侵略の陣頭指揮をゼロから任されてや
ってきた、と考えられないかな」


「ありうる」
 と、ビュートが即答する。
 マルクは苦虫を噛みつぶしたかのような顔をしていたが、「そういうことなら、多分そ
うなのサ」と渋々同意する。
 ゼロがドロッチェやビュートといった、闇とはおよそ縁のないものを配下に入れている
のは、夢の泉のような闇が干渉できない要素を排除するためだろうという話、チナツはビ
ュートから聞いたことがあった。その夢の泉は既にダークマターに占拠され、スターロッ
ドは破壊されている。
 ゼロが敢えてドロッチェやビュートを起用し続ける理由はなくなった、とも言えるのが
現状だ。
「遂にアタシ達はお役目御免って所なのかしら。案外あの引き籠もりもやるわねえ」
 最初からあんなヤツに従う気はさらさら無いけどね、とドロシアが吐き捨てる。
「そんなところだろうね。しかし、ただ放出されるとは考えられない以上、策を講じる必
要が出てきてしまったよ」
 やれやれなことだ、とネズミがぼやいた。
「ふ、ふん!」
 鬱屈とした空気を払うかのごとく、マルクは大袈裟に鼻を鳴らすとのけぞった。
「どっちみち、キミはボクと一緒にゼロを倒すことになっていたんだ。結局は何も変わら
ないのサ!」
 虚勢にも見えるマルクの態度など気にした様子もなく、ドロッチェは明後日の方向を向
いたまま、はっきりとこう言った。
「私はね、この世に存在するお宝さえ手に入ればそれで十分なのだよ」
「どういう意味なのサ」
 睨め付けるマルクを一瞥すると、ドロッチェは口角を僅かに上げる。その嘲笑のような
面持ちに鼻白むマルクに向けて、言葉を続ける。
「ゼロにつけば多分に無理が通るだろう、それが私の狙うところだった。だから、敢えて
ゼロと対立するなどという、リスキーな選択肢は極力避けたいということだよ。無論私は
ゼロを信用していないし、それは向こうも同じだろう。だからこそマルク、君の持つハイ
パーゾーンへ介入できる力は、切り札として持っておきたかった。飽くまで切り札だよ。
君と私の違いはそこだ」
「どういう事なのサ! キミはボクに協力してゼロを倒すって言ったはずなのサ」
「ククッ。そのような口約を鵜呑みにするとは、稀代の魔術師殿の頭脳も錆び付いてしま
ったのかね」
 唖然とした面持ちで口ばかりをパクパクさせるマルクを冷たく見遣ったのも一瞬、ドロ
ッチェは大袈裟に肩を落として見せた。
「それも以前の話だがね。しかし、どこから情報が漏れたのだろうね。ダークマターの監
視の目は何処にでもある、ということか」
「アイツの連れてたお気楽ダークマターが怪しいのサ」
 ずびし、とマルクがビュートを指差した。
「あのダークマターがゼロに情報を漏らしたに違いないのサ!」
 黒丸は幽閉された上に、凍結状態に置かれている。それはダークマターを介してゼロに
情報が漏れることを、ドロッチェは懸念している事を端的に示している。流石にマルクの
言葉を肯定はしないが、ドロッチェもその可能性は考えているだろう。
 だんまりを決め込んでいたビュートは視線が集中したのを見ると、ようやく口を開いた。
「黒丸を処分する。何処かで適当に戦闘を起こし、その間に不慮の事故を装って斬る」
 ビュートの言葉にチナツだけが瞠目した。ドロッチェ達の表情に動きは特に見られない。
黒丸はダークマターであり、根本的に彼らとは起源を異とするモノに過ぎないと思っているの?
 みんな酷い。ビュートも酷い、あれだけ行動を共にしたのに簡単に『斬る』なんて。
「それでゼロが納得するかな?」
「先に事実を作るだけだ。納得しようがしなかろうが、戦闘中の事故で黒丸は消えた。そ
の事実を受け入れるしかないだろう」
 ネズミが黙する。顎に手を添えたまま微動だにしないドロッチェの表情は、シルクハッ
トの作る影に隠され、チナツが窺うことはできない。でも、ビュートの発言をかなり前向
きに検討している事はわかった。
 間もなく、ドロッチェは徐に口を開いた。
「夢の泉に居たダークマターは覚えているかい? アレは既にデデデ大王達の手により消
滅させられてしまったんだが、いい口実が出来たとは思わないかな」
「成程。それならば“ゼロのために夢の泉を再度制圧するための戦い”という、大義名分
が立つな」
「ダメ! あの子を殺すなんて絶対にダメなんだから!」
 気が付いたときには、既に言葉が口から飛び出していた。そしてはじかれたように立ち
上がったチナツは、会議室を飛び出した。
 黒丸はドクの手により冬眠状態にされていると言っていた。何処の部屋にいるのかまで
は知らないけど……片っ端から部屋を覗いていけばいい。
 途中でスピンやストロンに声を掛けられたが、それらを全部無視してチナツは部屋の扉
を端から開けていく。幾つ目の扉だったかは覚えていないが、透明なケースの中で眠る黒
丸を見つけた。
 近くの機械に取り付き、目に見えるボタンを片っ端から押しまくる。彼女の後を追って
きたスピンがチナツの行動を見て何か喚いているが、そんなのに構っている場合ではない。
押しても押しても反応の返ってこないボタンに苛つき、機械を蹴り飛ばすと、黒丸を閉じ
こめていたケースのロックが外れた。
 冷たく白い煙が吹き出し、部屋を充満する。
 硬質な音を立てて転がり出てきた黒丸を腕に抱きかかえる。想像以上の冷たさに、黒丸
と接する皮膚が痛み徐々に感覚が無くなっていくが、それには構わず、チナツは一目散に
外に向かって駆け出した。
 この子は絶対に死なせない、死なせないんだから!


 会議室に取り残された四人は、チナツが勢いよく開け放ったドアを無言のまま見つめて
いたが、ゆっくりとドロッチェがビュートの方を見た。
「彼女はなかなかの跳ねっ返りだね。連れ戻さなければ」
「私が行こう」
 ビュートが得物を手に立ち上がった。
 マルクとドロシアは、基本的にチナツとは無関係……ドロシアは彼女に武器を与えた経
緯はあるが……だから、チナツを説得するのであればドロッチェかビュートが出向くしか
ない。しかし、よもやあの剣士が自ら立ち上がるとはね、と感心半分、疑念半分でビュー
トを見遣る。が、ドロッチェはすぐにある結論に思い至った。
 反応を待つことなく歩き出したビュートの背に、
「一応言っておくが、彼女は斬らないでくれよ。それは流石に後味が悪いからね」
 と釘を刺した。

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投稿日 : 2010/04/08(Thu) 16:15 
投稿者 : guri  


ハッ、ハッ、ハァッ……
 すあなを飛び出したチナツは闇雲に森の中へ飛び込んだ。
 どうしようどうしよう、掴まるのはダメ絶対ダメ、でもあの4人から逃げきれる?ムリ
絶対ムリ。どうしようドコに逃げればいいの?この世界に来てから頼れる人なんてビュー
トしか……
 混沌とした思考で、チナツは必死に頭を巡らせる。
 ぁ、そうだ……。
 そうだ、あの子なら……きっと。
「ヒマ……」
 森の中にある少し開けた空間、ビュートに「待機してろ」と言われ忠実に待っているワ
ムバムジュエルが居た。長らく放置していたので、かなり暇そうである。
「ち、なつ」
 ワムバムジュエルはチナツを認識すると、嬉しそうに話し掛ける。
「ジュエル君。い、急ぎの任務なの、デデデ城までお願い!」
 返事を聞くすら暇も惜しく、チナツはワムバムジュエルの手によじ登る。
「ででで城……リョウカイ」
 そう。フラービィ君なら、きっと。


 森から飛び立ち半刻程、橙色に染まった海が見えてきた。チナツは黒丸を抱え、手に持
った矢の先から微弱な結界を張り、吹き付ける強風を防いでいた。
「オレンジオーシャンだ……」
 もうちょっとかな、チナツは冷えきった体を必死で叱咤しつつもホンの少し安堵する。
だが、頼りのワムバムジュエルは空中で唐突にその動きを止めた。
「ヨンデイル……」
「え?何、どうしたの?」
「みらくるまたーサマガ!オヨビダ!!」
 ワムバムジュエルは甲高くそう叫ぶと、体を震わせる。黒く粘性のある物質がワムバム
ジュエルの表皮から染み出る。それは球体を形作り、一つ目がゆっくりと開かれる。
「オヨビダ!オヨビダ!!オヨビダ!!!」
 そう何度も叫ぶと、名も無きダークマターは空の彼方へと飛んで行った。チナツはそれ
を呆然として目だけで見送る。だがある事に気が付くと、弾かれたようにワムバムジェル
を振り返った。
「わしは一体何を……」
 宝玉の輝きは既に失せ薄汚れた岩の体、所々ヒビすら入っている。ワムバムロックと呼
ぶべき存在がそこには居た。声はしわがれ、力無く呟く。
「長き……長き悪夢であった……宝など、夢幻であった……」
 ワムバムロックは両手をだらしなく下ろす。そしてマジルテへの方向を見出すと、漂う
ようにふらふらと帰宅の途へついた。
「帰ろう、我が城へ。マジルテへ……」
 ああ……アタシまた落ちるのね。チナツはせめて手離すまいと黒丸をひしっと抱え込む。
暫しの落下運動の後、大きな音を立て波の狭間に飲まれて消えた。


 オレンジオーシャンには暖かい海流が流れている。その海流がレインボーリゾートから
の冷たい風を防いでいるお陰で、ヤシの樹などの様々な植物が生育しているのだ。風光明
媚で暮らし易い、その評判が多くの人を呼び大きな港街まで出来ている。
「好調好調、我がボンカース海運は絶好調であるっ!!」
 早朝、その港町から出航した一艘の帆船。船長のボンカースはご機嫌であった。ファッ
ティホエールに船を壊されて暫らく腐っていたものの、イチかバチかで始めた海運業が大
当たり、ダークマターに襲われても対抗出来る船として、引っ張りだこになりつつあった。
「これで資金が貯まったら、伝説のキャプテン・スカラーが隠した財宝探しを再開出来る
ってもんだ!」
 だが、そのお宝が既にドロッチェによって回収済みである事を、ボンカースは知らない。
「チリー、今日の予定は何だ!」
「へい親分!まずメタナイト要塞から、ブルームハッター印のクリーン箒を大至急届けて
欲しいとの依頼が一つ!それからロロララ城から……」
 頭上から声が降り、二人の話を盛大に遮る。
「親分ー!女の子が浮かんでいやすぜ!!」
 双眼鏡片手にペンギーが騒いでいる。船の進行方向を見ると、確かに何かが浮いている。
「女の子だぁ?よしお前等回収してこい!」
 慌てて引き上げてみると、人型が一人それに抱えられた丸型が一人。二人とも体が恐ろ
しく冷えているが息はあった。二人は力強く抱き合っていたが、無理矢理引き剥がす。
「おい、生きてるか嬢ちゃん」
 ボンカースはそう言いつつ、頬を軽くピシパシと叩く。それに応え女の子が薄目を開く。
「デデデ城に……行かないと……」
 それだけ言うと女の子は再度気を失ってしまった。
「腕が凍傷になりかけてますじゃ、レインボーリゾートから流れてきたんかのぉ」
 船医のスパイニーが二人を調べている。その脇でボンカースが腕を組み考えている。
「デデデ城の関係者か。最近城を奪還したらしいが……」
「親分、まさか」
 チリーが慌てて止めようとする。
「確か要塞から少し先の不凍港が、城に一番近かったな」
 しかし、全く聞き耳を持たない。
「それに、こんなガキどもをずっと抱えておくのも面倒だ」
「ダメだ、もうこうなったら止まらない……」
 チリーがげんなりしつつ『拝啓メタ様、ごめんなさい』と書状を書き始めていた。
「野郎ども!本日最初のお届け先はデデデ城だ!!」
「「「いえっさー!!」」」
 船長ボンカースはハンマー振り上げ鼓舞をする。船員達は威勢よく鬨の声をあげるので
あった。


ハルバード艦橋――
「頼んだ箒はいつになったら届くんだスかー!!」
 メイスナイトの叫びが、堆く積まれた残骸の山に木霊したとかしなかったとか。

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投稿日 : 2010/04/11(Sun) 00:51 
投稿者 : ヨツケン  


ドロッチェがデデデ城より帰った後、デデデ城から遠く離れた場所に自宅より帰還して
きたルナがポップスターに舞い戻った。
「何、この嫌な風は……」
ポップスターに入ると直ぐに、ルナは流れる風に混ざっている僅かな闇の痕跡を感じ取
り、思わず身震いをした。
これまでも幾度となく心を闇に取り付かれた者達と戦ってきた彼女で有るが、これ程ま
でに闇の気配に満たされた風を感じたのは始めてであった。
「急ごう……」
風上に進路を取り、向かい風の中を飛んで行くと、風に含まれる闇の痕跡が徐々に濃く
成っているのを肌で感じた。
そして、ようやく彼女はこの気配の根源たる場所に辿り着き、思わず絶句した。
「なっ……?」
彼女の前に現れたのは、空を覆い尽くす程の夥しい数のダークマター達が、何処かに向
かって移動する姿だった。咄嗟に彼女は近くに立っていた樹の陰に身を隠し、その異様な
光景を観察した。
「一体何が起ころうとしてるの……」
眼を凝らして良く見ると、オレンジ色の物体が付いたコマンドクラスのダークマターも
数十体見受けられ、その中心に司令塔らしき白い多面体の身体に無数の赤い目が付いた闇
の生物が居た。
「アレがダークマターを集めてるのね……それにしても一体何処へ……っ!」
突然彼女は弾かれた様に懐からポップスターのマップを広げ、ダークマターの様子を確
認しながらマップに一本のラインを引いた。すると彼女の表情に動揺の色が浮かんだ。マ
ップに書き足された一本のラインはいま彼女の居る地点とデデデ城を真っ直ぐに繋いでい
た。
「急がなきゃ!!」
ルナは直ぐに今出したものを仕舞うと気付かれない様にその場を離れ、直ぐにデデデ城
に向かって飛び始めた。
脈打つ心臓を押さえながらも徐々にスピードを上げて行く。そうしながら暫く飛んでい
ると、やがて地平線にデデデ城が見えてきた。
「急がなきゃ急がなきゃ急がなきゃ!!」
自分に言い聞かせるかの様に彼女は何度も繰り返した。そしてようやく辿り着いたデデ
デ城の開いていた窓へと彼女は飛び込んでいった。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
自分の目の前さえ見えない様な暗い洞窟の中、其処で彼は自らを造り出した存在から命令を受けていた。彼の身体は何時もの騎士の様な格好に包まれている。
やがて通信が終わったのか、彼は突き立てていた剣を抜き、闇に向かって話掛けた。
「我ガ主カラ司令ガ有ッタ、みらくるまたートハ反対側カラ攻メ込ム!!」
彼が言い切ると、闇に一つの青い窓が現れ一文だけ表示された。
【 了 解 】
彼はそれを確認すると、洞窟のたった一つの出入口に向かって移動を始めた。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

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投稿日 : 2010/04/20(Tue) 00:16 
投稿者 : tate  


 ドロッチェがデデデ大王と接触したその日の黄昏時。
 ひゅーん、と橙に染まる空を小さな白い影が飛んでいく。オレンジオーシャンに迫り出
したメタナイトの要塞を認めると、それは真っ直ぐに要塞に向かって降りていった。

「メタナイト様、失礼しますだス」
 そう言って、メタナイトの自室の扉をメイスナイトが数回叩く。間もなく扉が開き、主
が顔を出した。
「何だ」
「メタナイト様にお会いしたいと、クラッコJr.が来てるだス。デデデ大王の遣いだと
か何とか」
 陛下の? とメタナイトは訝しげに呟くと、「すぐに行く」と一度自室に引っ込んだ。

 オレンジオーシャンの応接間……ちょうど空いていた一室に過ぎないが……に通された
クラッコJr.は、壁一面を彩る絵の具に目を白黒させていた。極彩色にべったりのとこ
ろもあれば、中途半端に水を掛けたかのようにまだらになっている場所もあったりで。
 壁を見なければいいんだ! と目を瞑ることを思いついた所で、ようやくメイスナイト
がメタナイトと共に戻ってきた。
「クラッコJr.か。陛下からの遣いだと聞いたが」
「ボクがそのおつかいです! えっと……これ、大王さまからです」
 そう言うと、クラッコJr.は先刻デデデ大王から預かった封書を一通、メタナイトに
差し出す。仮面の騎士はぞっとしない雰囲気で、ご丁寧に封蝋されたそれを受け取ると、
クラッコJr.の目の前で開けた。
「メタナイト様、デデデ大王はなんて言ってきただスか?」
「ゼロの居場所を割り出したそうだ。ただ確証がないため我々の方で確認して欲しい、と
のことだ」
 あのデデデ大王がだスか〜? とメイスナイトは怪訝な顔をしている。
 クラッコJr.自身はひっそりと父親から“情報はりーくされたモノ”だと聞いている
が、手紙にはそこまで記されていないようだ。
 元々、メタナイトがデデデ城で闇の動向を調査していたぐらいにはデデデ城にもそれな
りの設備はあるのだが、先の落城から奪還戦の最中で機能しなくなってしまっていた……
と、デデデ大王がぷりぷり怒っているのを、クラッコJr.は昨日目の当たりにしたばか
りだった。
「陛下からの申し出については承知した。私からも返信の書状を送ろう」
 メタナイトは一度言葉を切り、窓の外を一瞥する。西の空はうっすらと橙色に染まって
いるが、そろそろプププランドでもディナーの時間になる頃合だ。
「そろそろ日も暮れるな……今日の所は要塞に泊まるといい。明日の朝、一番で書状を渡
せるようにしておこう。メイスナイト、彼のための部屋を用意してくれ」
「承知しただス! 付いてくるだスよ」
「あ、はい」
 メタナイトに向かってペコリと一つ礼をすると、クラッコJr.はメイスナイトに続い
て部屋を後にした。

 *

 その翌朝、朝一でメタナイトから書状を渡されたクラッコJr.は急いで空を駆け、デ
デデ城へと戻ってきていた。でもって現在、王座にふんぞり返って手紙を読むデデデ大王
を目の前にしていた。
「あのう……大王さま、メタナイトさまの返事は……」
 恐る恐る語りかけると、じろり、と睨まれた。あわわわわ、と冷や汗をだらだら流しつ
つ身を縮める。
 ちなみにこの場には、クラッコJr.の他にはケビィとシャインが居る。デデデ大王達
が話をしているところにクラッコJr.が飛び込んできたまま、何となくメタナイトから
の返事の話題になったのだった。だからデデデ大王の八つ当たりでクラッコJr.が煎餅
になる危険性はないのだが、睨まれるとやっぱり怖い。
「ワシからの要求は概ね承知した、と返してきた」
「ということは、例のゼロの居場所はメタナイト殿が調査されるのですね」
「うむ。ただ時間が掛かる可能性が高いから、追って連絡する等と抜かしてきたわ」
 一週間掛かるか、はたまた二週間か……とMr.シャインの問い掛けに、デデデ大王が
渋い顔をする。
 大王さまはごきげんななめのようだ、色々言わない方がいいかな……とクラッコJr.
が退室するタイミングを窺っていると、ソードナイトが「失礼します!」と急いだ様子で
やってきた。
「どうした」
「城の外で少々トラブルがありまして、その……我々では対処しかねますので、陛下をお
呼びに参った次第です」
「トラブルだと?」
 詰問口調のデデデ大王に押されたソードナイトは、若干気まずそうに、ええ……と歯切
れ悪く頷く。
「運び屋の荷物にダークマターが紛れ込んでいたらしく、大騒ぎになっております」
「今すぐ案内しろ」
 “ダークマター”という言葉に、デデデ大王の表情が一変する。傍らに置かれているハ
ンマーを手にすると、大王は王座から立ち上がった。


 ソードナイトの先導で城を出たデデデ大王……と好奇心に駆られて勝手に付いてきたク
ラッコJr.は、城から間もない森の切れ目にたむろう者を目にした。何を話しているの
かまでは聞き取れないが、妙に賑やかな喚声が聞こえてくる。
 デデデ大王達にいち早く気が付いたブレイドナイトが、小さく会釈した。
 ブレイドナイトに遅れること数刻、その場にたむろっていたボンカース、チリーにペン
ギーもデデデ大王の登場に気が付き、そそくさと距離を取った。こいつら三匹が、ソード
ナイトの言う“運び屋”なのだろう。
 デデデ大王はブレイドナイトとソードナイトを交互に睨み付けると、どすんとわざとら
しくハンマーの頭で地面を突き、腕を組む。
「ダークマターが出たと聞いたが、そんなことでわざわざワシを呼び付けるとはどういう
用件だ。お前達で十分対処できるだろうが」
「それが……ご覧頂くのが早いかと」
 二人の剣士に促され、デデデ大王は輪の中心に在るモノに目を向ける。
 最初に見えたのはオレンジ色の頭、そしてその上に鎮座するコマンドタイプのダークマ
ター。じと、と三白眼で辺りを睨み付けていたそれはデデデ大王を認識すると、ぽよぽよ
と身体を揺らしながらこう叫んだ。

「チナツさんは、私が守るですぅ! 近寄らないでくださいですぅ!」

 しーん、と辺りが沈黙に包まれる。遠くから小鳥のさえずりが聞こえてくるだけでなく、
そよそよと森を通り抜けるそよ風の足音さえも聞こえそうな勢いだ。
 沈黙が続くこと暫し。
「なんだアレは」
 デデデ大王が誰に尋ねるともなく、呟いた。
「ダークマターです」
 と、ソードナイトが律儀に答える。
 運び屋のボンカース達が海で回収した少女を城へと運んでいたところ、抱えていた黒い
球体が突然動きだして今に至るそうです、とひっそりとソードナイトは補足する。
「また厄介事を……待て。チナツか、聞いたことがある名だ」
「以前、フラービィ殿が隠れ家に運び込んだ少女と同じ名前です。外見的な特徴も一致し
ていますし、おそらく同一人物かと」
 そっとブレイドナイトが耳打ちする。
 成程、本によりこちらの世界に迷い込んできたモノか、とデデデ大王は心の中で頷く。
件の刀使いと共にブライトとシャインを襲撃したと聞いているが、無抵抗のモノを問答無
用で処罰するわけにもいかない。
 しかし、捕縛するにしてもダークマターが邪魔だ。
 ハンマーを手に一歩踏み出すと、ダークマターはぽふんとチナツの上に着地した。
「それ以上近寄ると、攻撃するですぅ!」
 てこでも動かないとばかりに辺りを睨み付けるこのダークマター、どうしたものか。こ
こまで密着されると、チナツを傷つけずにダークマターだけ攻撃するのは難しい。……だ
からソードナイト達はデデデ大王を呼びに来たのか、心の中で嘆息する。
 こちらの言い分は通じるだろうか。極希に良き心を持つダークマターも居たりはするが
……と藍色の球体のことを思い出しながら、言葉を探る。
「ダークマターよ、ワシの言葉はわかるか? その娘はワシの方で預かろう」
「ダメですう! チナツさんは、私が守るですぅ!」
「だがこのままその娘を放置したら、いずれ衰弱して手遅れになりかねないぞ」
 深刻な面を敢えて作り語りかけると、ダークマターの三白眼が若干丸くなった。視線こ
そは周囲をくまなく見回しているが、鋭さは無くなった。ダークマターは何かを必死に考
えている。お前は一体何を考えている?
「あのう……ボクに話をさせてください」
 不意に足下から声が聞こえてきた。視線を向けると、クラッコJr.が必死な眼差しで
見上げてきている。付いてきている事には気が付いていたが、一体何を言い出すのかと思
えば。
 やれやれと思っている間に、クラッコJr.はするりと勝手にデデデ大王の前に出た。
そしてデデデ大王が制止する間もなく、こう言い放ったのだった。

「ボクのこと、おぼえてますか!?」

 と。

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投稿日 : 2010/04/21(Wed) 02:49 
投稿者 : 笹  


 蝋燭の作り出す揺らぐ明かりに照らされた、薄暗い小さな部屋。ペイントローラーはそ
の中央にある質素なテーブルの上に、大事に抱えていた箱を置いた。豪奢とはいえないが
しっかりした作りの、いわゆる宝箱だ。その宝箱を回転させ、正面が対面の相手に見える
ように置き直す。そして一呼吸置くと、ゆっくりと蓋を開いた。
「……こんな状態なのダガ……直せるだろうカネ?」
 ペイントローラーが対面の相手に問いかける。宝箱の中には、弱々しくも神秘的な光を
放つ切片――スターロッドの破片が積み重ねられていた。
 テーブルを挟んで対面に無音で浮かんでいた相手、青いフレイマーの姿をしたケビィは、
やはり無音のまま、ゆっくりとその宝箱に近付く。そして徐にその一つだけの目を閉じた。
すると、ケビィの纏う炎の輝きが増し、それに呼応するように、スターロッドの輝きも少
しだけ増した……ペイントローラーはそんな気がした。
「……素晴らしい状態です。若干欠けている部分もあるようですが、充分に修復が可能で
す。」
 ケビィは目を開きながら、漸く声を発した。
「良かッタ……しかし、足りない部分があるのカネ。探してこよウカ」
 ペイントローラーはその言葉に半分安堵しつつ、半分自身の仕事の甘さを悔やんだ。
「いえ、その必要はありません。これだけベースが整っているのであれば、一刻も早く修
復を開始して、自己修復力に任せる方が結果的に早く済むでしょう」
「ふむ、そウカ。ではすまないが、よろしくたのムヨ」
「いいえ、これが私の役目ですので、気にされる必要はありません。……それでは……」
 ケビィは言葉を切る。
「ああ、では邪魔にならないように私は出ていヨウ。もし何か手伝うことがあったら呼ん
でおくレヨ」
「恐れ入ります」
 ペイントローラーはケビィに軽く会釈すると、部屋に一つしかない木製の扉をくぐり、
通路に出た。ひんやりとした石造りの直線通路の向こうに、重たそうな赤いカーテンが見
える。ペイントローラーはローラースケートを石の床に叩き付けないように注意しつつ、
カーテンに向かってゆっくりと滑っていった。
 先ほどの部屋はデデデ城の奥の奥、それも玉座の後ろのカーテンに隠された、いわゆる
隠し部屋と言われる部屋である。デデデ大王の玉座に最も近く、外敵の進入しうる窓など
が一切ないこの小部屋は、従来は特別に守りたい宝物を隠したり、秘密の会議をするため
の部屋とされていた。残念ながら先刻の戦いで敵方に発見されたらしく、隠していた宝物
も備品も殆どが持ち去られてただの空き部屋と化してしまったが、その空き部屋が、修復
に集中できる場所が欲しいと言うケビィに丁度良いとあてがわれたのである。
「だいおうさまー! だいおうさま〜?」
 と、ふいに10メートルほど先にあるカーテンの向こうから大きな声が聞こえてきた。こ
の声はあのバンダナのワドルディだろうか。
 やれやれ、音がこんなに筒抜けじゃ、集中できる場所とは程遠いかもしれンネ。
 ペイントローラーはそう呟きながら急ぎ足で通路を進むと、カーテンを捲って玉座の間
に顔を出した。
「あ、ペイントローラーさんっ」
 カーテンの向こうには、案の定バンダナワドルディの姿があった。
「陛下なら、さっき私と入れ違いに外に向かわれタヨ。何か騒ぎがあったそウダ」
 とりあえず、手早くワドルディの知りたいであろう情報を伝える。そして、続けて逆に
問いを発した。
「その様子だと、こっちはこっちで急ぎカネ?」
「は、はいっ。ルナさんが、だいおうさまにいそいではなしたいことがあるそうです!」
「ルナが陛下ニ……?」
 ルナはあの戦いの後、すぐに何処かに旅立ったと聞いたが、帰ってきたのだろうか。ま
ぁあのルナが陛下を捜しているというのだから、きっと急ぎだというのは本当だろう。と
りあえず話を聞いて、必要そうなら案内しよう……ペイントローラーはそう判断した。
「フム。ルナは今どこにいるんダネ?」



 ワドルディ一体分に近い大型サイズの爆弾が一つ、導火線から火花を散らしながら放物
線を描いて飛んでくる。水色の鎧を纏ったブレイドナイトは、剣の腹を使ってその勢いを
上手く殺すと、そのままそれが飛んできた方向に打ち返した。
 どごん
 短い音を立てて、爆弾がその投げ主、ポピーブロスSr.の顔の前で炸裂する。火力と言
うより想定外に近くで鳴った爆音に驚いて目を回したポピーブロスSr.から、スーッと黒
い雲が吹き出すと、ブレイドナイトはそれが球状にまとまるか否かというタイミングでそ
の空間を真っ二つに薙いだ。一瞬ダークマターになりかけた黒い雲は、そのまま霧散する。
「やったぁー」
「かっこいいー」
「わーわー」
 ブレイドナイトの後方の茂みから、子供の甲高い声が聞こえたかと思うと、三体のウィ
スピーウッズJr.が飛び出してきた。
「…………。良いから早く介抱してやれ」
 ブレイドナイトは軽く額に手を当てながらそう発する。
「はーい!」
「さあ、もう大丈夫だよー」
「食べて食べてー」
 ウィスピーウッズJr.の一体が気絶しているポピーブロスSr.の口に無理矢理リンゴを詰
め込む。そして残りの二体と協力してポピーブロスJr.を引きずるようにして退場してい
った。ブレイドナイトはそれを無言で見送る。
 それにしても……思った以上の数が入り込んでいるな。
 ブレイドナイトはウィスピーウッズJr.の戻っていった道――今自分が進んできた森の
道を見て、率直にそう感じた。Mr.フロスティを解放してコマンドタイプのダークマター
を倒してから、すでに一刻ほど経っただろうか。その間ブレイドナイトは、今のような戦
いをひっきりなしに繰り返していた。
 がさっ
 まだいたか、ブレイドナイトは反射的に音のした方角を向き、剣を構える。その視線の
先には一体のホットヘッドが立っていた。その目は殺気立っていてしかし何処か虚ろ……
ダークマターに取り憑かれた物の典型的な目だった。となれば次は飛びかかってくるに違
いない。長剣を構える手に力がこもる。
「……?」
 しかしブレイドナイトの予想に反し、ホットヘッドは攻撃を仕掛けてこなかった。それ
どころか、ブレイドナイトの方向とは若干逸れた、何もない場所を見つめたまま硬直して
いる。
 ブレイドナイトが怪訝に思い、自身からの攻撃を検討し始めた頃、不意にホットヘッド
から黒い雲が吹き出した。
「……みらくるまたーサマガ、ヨンデイル……」
 そしてホットヘッドから離脱した黒い雲は、ダークマターの姿に変化しつつ空高く浮上
し、上空で球状になると同時に進行方向を変え、何処かへ飛び去ってしまった。
「……どういうことだ……」
 木々の隙間から見える空を見上げて思わずそう呟いたブレイドナイトの目には、複数の
ダークマターが何処かに向かって飛んでいく様子が断続的に映っていた。

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