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小説の中へ [26]



[16スレ 6−スレ最終レスまで]
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投稿日 : 2010/11/21(Sun) 05:16 
投稿者 : あおかび  



「――――あぁ、駄目だ」

フラービィは誰に伝えるでもなく呟いた。
カービィやガントレットと別れてからモニタをじっと睨め回していた物の、収穫はほとんどない。
ずっと休んでいなかったせいか、フラービィは両目をしぱしぱと開いたり閉じたりしていた。

アックスナイトに候補となる座標を教えてもらったところまでは良かった。
その後、端末を巧みに用いて有効な座標をさらに絞れたのも上々だ。
事実、アックスナイトやメタナイトを含め、その場にいた誰もが彼の技量に驚き、賞賛の言葉を投げかけた。
後にアックスナイトに聞いたところでは、早くて数日ほどかかる見込みだったらしい。
そんな所業をわずか半日ほどで終えてしまったのだ。面を喰らうことはあっても不利に働くことはない。

けれど、そこから先に続かない。
座標は絞ることができた。だが、そこへ進入する方法が思い浮かばない。
船員に尋ねたところで、メタナイト含め誰からも有益な答えは返ってこなかった。

(僕の知っている世界では、闇の眷属じゃない者としてはカービィしかハイパーゾーンに進入していない)

そして、そのカービィの手にはラブラブステッキがひしと握られていた。
しかし、ラブラブステッキは今は手元にないのだ。どころか、敵の手に渡っている疑いすらあるのが現状だ。
勿論、カービィがハイパーゾーンに入り込めたのが本当にラブラブステッキのおかげかどうかは、フラービィにも分からないが。

しかし、それが条件であったところでなかったところで関係はない。
そもそも、ハイパーゾーンはダークマターたち闇の眷属の世界。それ以外の者は肉眼で捉えることすら拒まれる。
座標が分かってそこに調査隊を派遣したところで、どうにもならないのがオチとして見えてしまっている。

単純作業が必要なら、四の五の言わずに手を動かし続ける。
閃きが必要なら、天啓を受けるまでひたすら頭脳を回転させる。
注意力が必要なら、両目が干からびるまで画面を凝視する。
その程度のことであればやり遂げられる自信が、彼にはあった。

ただ、今回はそのいずれにも該当しない。
鍵がかかった扉を見つけたところで、鍵を探す、作る、以前に、そもそも鍵穴がどこにも見当たらないのだ。
これ以上作業を続けるのは無駄だと判断したのか、フラービィはモニタの電源を切った。

肩から力を抜き、背筋を伸ばす。それから「ふぅ」と一息ついた。
窓に目を見やると、外は既にお昼時になっているようで、濁り無い日差しがさんさんと降り注いでいた。
ダークマターたち闇の眷属がこの世界にいるなんて悪い冗談だ、とフラービィは思った。

船員の中には昼食に手を出している者もいたが、フラービィはキリが付いたところで簡単な食事をとったのでまだ動ける。
だが、やることが特に思い浮かばないからどうしたものか、と思案していた矢先――――

「すみませんすみませんすみませんすみません!! 遅れて申し訳ございません、ボンカース海運です!」

扉が勢いよく開け放たれたことに気付くやいなや、息を切らしたチリーが姿を現した。
はて、宅配便のようなものだろうか、と眺めていると、同じく暇をもてあましていたメイスナイトがチリーに近寄った。
何を頼んだんだろう、とメイスナイトの顔を伺うと、フラービィの背筋が凍り付いた。
殆ど固定された顔のパーツをこれでもかと言うほど端へ動かし、精一杯の憤怒を表現していたのだ。
この顔を写真に収めれば後で笑い種になるかもと考えたが、一挙一足が怒りに震えていたのでその場から動けなかった。

雪で形作られた体を溶かそうとせんばかりに、メイスナイトの背後から陽炎が轟々と立ち上る。
気の毒な配送員は、「ひぃっ」と小さな悲鳴を上げて後ずさった。

「な――ん――で――お――く――れ――た――ダス――か」

それでも語尾はちゃんと付けるんだ、とフラービィが感心していると、チリーは床に手足をつき頭を下げた。
如何にも謝り慣れていそうな気の毒な姿勢のまま、チリーはひたすら謝辞を述べる。

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいめんごっ!
 遅れたことはこちらの責任ですし、弁明の余地などございません! お詫びの書状でしたらここにあります!
 ……本当はもう少し早く来れたかもしれませんが」

メイスナイトの額に青筋がびきびきと浮かぶ。
ハッ、と気が付いた頃にはもう手遅れで、顔のパーツが見えなくなるほど真っ白な顔で、チリーは弁明を始めた。

「それもですねあの社長が流れ着いた得体の知れない女の子を運ばなければ
 せめて馬鹿社長が一番上等な船を使いやがらなければもっと早くお届けできたわけですよ
 その子がデデデ城に行くなんて言わなければ仕事のない愚図部下に頼んで介抱させるだけで済んだのに
 それもこれも――」
「――女の子、ダスか?」
「……うん? そうそう
 しかし、この辺りでは全く見慣れない姿でしてね。
 黒い髪に赤いベレー帽に緑色のシャツのヒトだったら私も見かけたことはありますが、
 その子はオレンジの髪に桃色の衣服を着ていたんですよ。
 ええ、シャツの色を見て、ピンクの悪魔に吸い込まれたトラウマが蘇ってきましたね」

(女の子……? オレンジの髪……?)

まさか、と思いフラービィはガタッと席を立った。
既に話題は別の物へ移っていたが、そんなことなど気にしない。
今は藁にでもしがみつきたい状況だ。それらしい餌がぶら下がっていたら、無様にも食らいつかざるを得ないのだ。

「すみません。今の『女の子』の話、詳しく聞かせてくれませんか」


--------


メイスナイトがブルームハッター印のクリーン箒を運び出している時。
フラービィは、アックスナイトが用意してくれたウィリーバイクに跨がっていた。

オレンジの髪の女の子は、以前雲の隠れ家で会った『チナツ』のことだ。
フラービィはただただそう思い込むようにしていた。
そうではない可能性の方が高いのは承知している。それでも、司令室に閉じこもったところで意味は何もない。
今は喉から手が出るほどヒントないし情報が欲しい。

アックスナイト曰く、デデデ城までの道のりはこのウィリーが知っているとのことだ。
搭乗者が運転する必要は基本的にないが、振り落とされないようしっかりしがみつく必要があった。

オレンジオーシャンを出たときと比べ、周りの景色は全くと言っていいほど異なる姿を見せていた。
じきにデデデ城に着くかと楽観視していたところ、空には不吉な光景が広がっていた。
遠目では黒煙が空へ高く登っているように見えたが、ある程度近づくと印象がガラッと変わった。

空に浮かんでいるのは黒煙ではなく、大小様々なダークマターだった。
無限にも近いほどの数のダークマターが隙間無く密集しているのだ。
それは、見ようによっては蟻の行進、あるいは漆黒の天の川を連想させた。
どちらにしろ、気分がよい物ではない。むしろ、フラービィの顔は徐々に険しくなっていく。
さらに不気味なことに、ダークマター達はデデデ城へ向かって漂流していた。

「これは……。ここまで来るとさすがにぞっとしないや」

デデデ城にいるであろう皆の身を案じつつ、渦中に身を投げ出すという事実を噛み潰しながら。
フラービィは目的地へ向かうのだった。

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タイトル : Re^6: 16スレ目小説の中へ 
記事No : 544 
投稿日 : 2010/11/27(Sat) 21:00 
投稿者 : ヨツケン  

「……了解シマシタ」
日の落ちた暗闇の中、敵城正面よりミラクルマター率いる大隊が、進攻を始めた事を表す
信号を受け取り、目を伏せていた騎士の様な姿をしたダークマターは顔を上げ、懐から黒
い剣を引き抜きつつ頭上に掲げながら後ろを振り返り、周りのダークマター達に号令をか
ける。
「敵城ニ奇襲ヲカケル、我ニ続ケ」
黒い剣を進攻する方角に向け、移動を始めると後ろから十数体のコマンドタイプが後か
ら続いてくる。ミラクルマターの率いる大隊程の数では無いが、コマンドタイプだけの数
ならは同等数の軍隊である。
移動しつつ、ふと思い出したのは一人の人間、自分を親の仇とし幾度となく立ちはだか
り、そして斬り捨てて来た空色の髪の少女。今回も恐らくあの憎悪に満ちた蒼い瞳で、此
方を睨み付けながら戦いを挑んでくる筈だ。戦う楽しみが一つ増えた。
【進攻ポイント到着まで残り一分】 
目の前に表示された青い窓に目を通してダークマターは笑った、時間差による挟撃とは
いえ敵城への攻撃には違いない、敵もかなりの抗戦をする筈だ。だが、強い相手と戦える
ならそれで良い、例え相手が複数でも実力が拮抗すればするほど楽しめる。逆に一方的な
戦いはダークマターにとってあまりにもつまらな過ぎた。
これから起こるで有ろう激しい戦いを思い、身体中が疼いた。
【進攻ポイント到着】
「……ブレイク」
だから、敵からの突然の攻撃にも即座に気付く事が出来た。デデデ城裏口、一瞬の強烈
な光の後、飛んで来たのは無数の大小の星と、太い電撃の柱。それを回避の号令と共にギ
リギリで避けると、次に飛んで来た多数のガラクタと何処か見覚えのある氷塊を、抜き放
った黒い剣で斬り捨てた。
攻撃が止み、辺りを見回す。幸いほぼ全ての味方が回避の号令と共に攻撃をかわす事に
成功したようで、負傷した僅かなダークマターも戦闘に支障の無い程度の軽傷で済んでい
た。
「外しましたか……」
「流石に手強いようだ」
「ガウッガウガウ!!」
「私とルナさんの合体攻撃をかわすとは」
発せられた声の主達が現れた時、無意識にダークマターは笑っていた。そして、ゆっく
りと黒い剣を構えた。これなら心ゆくまで楽しめそうだ。
「全軍、目ノ前ノ敵ヲ殲滅セヨ」
【魔法使いがあらわれた!】
そして、青い窓と共に闇に侵された「魔法使い」が現れ、文章が写し出されると同時にそ
の場にいた全ての者が、目の前の敵と交戦を始めた。 

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投稿日 : 2010/11/30(Tue) 02:44 
投稿者 : あおかび  

現実離れした微睡みの淵の中。
少女の視界へ入るのは、彼女がここへ至る切っ掛けを映す断片の数々。

弓の道をひたすら歩んだものの、結果は才に富んだ妹に敗れただけ。
母は父に認められなかった妹の味方であり、唯一の理解者だった父は彼女から離れ妹についた。
彼女は背中を押され、天へ向かう山道から暗く深い谷の底へ転落した。

親友の甘言に乗り、化粧を始め、髪を染め、耳に穴を空け、かつての自分を投げ捨てた。
しかし、裏切られるまで時間はかからず、その後は周りからあざ笑われ、叩かれ、罵られるだけの毎日。
猛毒の香りが漂う地の底に両足をつけることすら、彼女には許されなかった。

もといた世界で落胆したところで、新しい世界が住み心地の良い所だとは限らず。
新しい世界に幻滅したところで、もといた世界に戻れるわけでもなく。
どちらも彼女の居場所にはならなかったわけで。
結局、彼女は天と地の狭間でゆらゆらと浮かび続けているだけ。

水晶のように澄み切った純心、屈強なる絶対的な誇り、明るく色鮮やかな思い出。
狭間の世界にいる彼女がそんな代物など持っているはずがない。
純心は淀んで斜に歪んだ原風景へ、誇りは崩れて人知れず燃える嫉妬へ、思い出は濁って黒く荒んだ悪夢へ、それぞれ変わった。

あぁ、なんて理不尽、なんたる不条理。
希望なんて、尚更あるわけがない。
しかし、それでも、彼女は健気に願い続けるのだ。
「いつか、認められますように」と。


--------


フラービィを乗せたウィリーバイクがデデデ城に到着した頃には、日が暮れかけていた。
ところが、周りに集まっているダークマター達に変わった様子は見られない。
デデデ城は厳戒態勢をとっているようだが、どうやら開戦しているわけではないらしい。
しかし、両者の緊張は高まりつつある今、いつ衝突を始めてもおかしくはない。

ウィリーバイクが門を通り越すと城の正面に着き、デデデ大王やその部下達の姿が見えた。
ダークマターを迎撃しようと待ち構えているところなのだろうと、フラービィは推測した。
折角のチャンスを無駄にしないためにも、ウィリーバイクから急いで降りる。
突然の闖入者に面食らったデデデ大王に事の経緯を説明すると、ソードナイトが呼び出された。
デデデ大王が言うには、捕虜がいる場所へはソードナイトが案内してくれるということなので、それに甘んじることにした。

ソードナイトに先導された先は、薄暗く物々しい地下牢だった。
そのうちの一室でブレイドナイトが見張りをしているかと思えば、中では見覚えのある姿の少女が横になって倒れていた。
お腹が多少上下していることから、誰かに襲われたわけでもなく、ただ眠っているだけだと分かる。

ソードナイト、ブレイドナイトにこの部屋だと告げると、ブレイドナイトが牢の鍵を開ける。
ソードナイトが扉を引くと、耳に悪い金切音が響かせながら重い扉が開く。
その後、ソードナイトがブレイドナイトになにやら耳打ちすると、2人は牢から離れていった。
敵から情報を引き出すための配慮だろうか、とフラービィは考えた。
確かに、敵が3人もいたら相手も相当警戒することだろう。

中へ入り、少女の肩を軽く揺する。
すると、耳にくすぐったい寝起き声を漏らしながら、少女はやおら両目を開いた。


--------


変な夢から覚めたと思うと、今度はちょっとした揺れを感じた。
ちょっとした気持ち悪さから反射的に両目を開け、オレンジ色の前髪を横へのける。

曖昧な焦点は、すぐ目の前にぼんやりとした人影を捉えた。
初めは誰だか分からなかった。けれど視野が定まるにつれ、シルエットは輪郭を身につけていく。
最初に目に入ったのは、混じりけの無い黒髪。続いて、大きな汚れのない白衣が現れる。
そして、ようやく影が明瞭になると、幼さの残ったあどけない顔が目に映った。

「――――おはよう。目は覚めた?」

不意にやってきた懐かしさに、胸がきゅんと締め付けられる感覚が身に降り注ぐ。
彼女本人は気付いていないものの、頬は若干赤く染まっていた。

「チナツちゃん……だよね? お久しぶり。雲の隠れ家以来だね」

少女――チナツは、こくりとかぶりを振った。
すると、不思議なことに胸の中がくすぐったい安心感で満たされていった。
春の日差しを受けた雪が融けるように、荒んでいた心が安らいでいく。
雲の隠れ家と同じ――いや、それよりもずっとずっと大きくて気持ちよく押し潰さそうな感覚。
ぽかぽかとして温かい心ってこういうものなのかな、とチナツは思った。

(まさか……また会えるなんて。こうして話ができるなんて)

期待を捨てていた邂逅に、心を震わせたチナツは一際両目を見開いた。
積もり積もっていた感情が、体中からわっと放たれそうになるのをぐっと堪える。

「なんで……なんでアンタがここにいるの?」

驚きや喜びが混ざりに混ざった、いつにもなく無防備な声色だった。
それを聞き取ったフラービィは、チナツに微笑み返す。

「君がここにいるって聞いてね。だから来たんだ。
 同じ立場の人と話せる機会なんて、そう滅多にあることじゃないし」

『わざわざ会いに来てくれた』という言葉を呑んで、チナツはさらに頬を赤らめる。

それぞれの所属を鑑みれば、チナツとフラービィは敵同士である。
それにも関わらず、欣喜雀躍した彼女はそんな些細な事をすっかり忘れていた。
過剰な電流を流されて、記憶媒体として正しく機能しなくなった磁気記録装置のように。

「ところで、君はどうしてここにいるの?
 また漂流したって聞いているんだけど……うん、水難の相が人一倍濃く出ているのかな」

あぁ、そういえば前も漂流した所を介抱してもらったんだっけ、とチナツは思い出す。
あの月と太陽の姿をした人と鉢合わせなければ、ずっとフラービィに看病してもらっていれば、そもそも彼らの敵とという立場でなければ。
この孤独な世界で、あそこだけが唯一心休まる場所だった。

そこまで回想に浸った後、ふと今の状況を思い出す。
チナツがここにいる理由、それは――――

「チナツさんは、私が、守る、ですぅ……近寄らないで、ください、ですぅ……」

叫びというにはあまりにも弱々しいて勢いのない、けれども必死な声がした。
ふと傍らに目を向けると、先程まで眠っていた黒丸がふわふわと浮かび上がっていた。
背中にあるオレンジの球体をぐるぐると高速回転させている。フラービィへの威嚇のつもりだろうか。

前へ向き直ると、フラービィは驚天動地の真っ最中だった。
黒丸が喋ったことに驚いているのかな、とチナツは簡単に考えてみた。
それにしても、城の外にいた人々とは全く違う反応だった。

「こ、これは一体……」

顔を若干引きつらせたフラービィが問いかける。

「黒丸っていうの。ダークマターっていうヤツの小型版みたい。
 見た目も実際も可愛いことぐらいしか私には分からない。
 以上紹介終わり」

雑な説明を受けたフラービィは「これも、ダークマターなんだ……」と目をぱちくりさせていた。
見た目の割には大人びている癖に、こういうところは子供だとチナツは笑ってみた。

しかし、時間はどれほど残されているか分からない。
一瞬だけうつむいて躊躇うものの、チナツは彼に打ち明けた。

「この子がアタシがここにいる理由。追われているのよ、アタシたち」
「追われている?」
「ゼロの部下が、この子を狙っているみたいなの。
 どうしてそうなっているのか、アタシにもよく分からない。でも、どうしても――――!」

今にも消えてしまいそうな、力なく浮かび続けている小さな小さなダークマター。
そんな彼へ右手を差し出すと、引き寄せられるように黒丸が移動する。
手のひらに乗ったところを、チナツはぎゅっと抱きしめた。

「チナツさん、コイツは誰です……ぅ?」
「フラービィっていうの。彼は味方じゃないけど悪い人じゃないよ」

手元の黒丸へ視線を落とし、そっと優しく語りかける。
けれど、彼の警戒がそう簡単に消えることはない。

「大丈夫……ですか……?」
「大丈夫、絶対大丈夫。怖くない、怖がらなくていいの」

先の夢の内容は、おかしなことにチナツの頭にしっかりこびりついていた。

両親、姉妹、親友、他人。様々な人々から、彼女は裏切られ続けた。
差し伸べられた手を受け取れば、すぐに同じ人物から払いのけられた。
そしてその都度、あまりにも理不尽、且つ不条理に、彼女の居場所は奪い取られた。
その事実こそが、『チナツ』がこの世界に身を置いている理由の一つだった。

でも、目の前にいる少年はそんな下郎とはハッキリと違うのだと。
チナツはなんとなく確信していた。もちろん、筆舌に尽くせる根拠などあるわけではない。
けれど、彼ならきっと――――

決意を固めたチナツは、フラービィへ顔を向けて。

「アタシだけじゃ、この子を守ってあげられない。何もしてあげられない。何をすればいいのか思いつかない。
 でも、この子が消えるのは間違ってる。絶対におかしい。何も悪いことはしていないのに。
 なんでもするから、だから――――」

いつの間にか、彼女の顔はぼろぼろに崩れていた。
熱のこもった水滴が、頬を伝い冷たい床へ流れ落ちる。

「――――助けて…………お願い…………」

紡がれた言葉はこぼれ落ちる涙のせいでしわがれ、原型など留めていなかった。

「ふぅ」と呟いた後、フラービィは腕を組み、腰を落とした。
チナツはそんなフラービィをしかと見つめる。
白衣を着た男の子は少し俯いているため、どんな表情をしているのか読み取れなかった。

ハッと我に返り、自分が口走ったことを吟味するやいなや、チナツは自己嫌悪した。
どう牽強付会にとらえても、「貴方の敵を助けろ」ということに変わりはない。
交渉材料もなしに、そんな厚かましい要求を呑む馬鹿がどこにいるのだろう。

チナツは答えが返ってくることが怖くて怖くてたまらなくなった。
無意識のうちに足が震え、黒丸を抱いている手にも力が入らなくなる。
もしも断られたら、黒丸よりも先に自分の体がバラバラに引き裂かれてしまいそうだ。

永遠に近い、重く冷たい沈黙が、狭い牢の中を支配する。
空気さえも凍り付き、ぞっとするほど体温も奪われていくような錯覚を受ける。
いっそ、ここで何もかも時間が止まってしまえば、こんなに悩み苦しむこともないのに――――

「分かったよ」

フラービィの顔が上げられた。
想定外の返事に、驚いたチナツの体が石のように強ばり固まる。
口をぽかーんと開けたチナツに対し、フラービィは軽く頭を掻いた。

「引き受けよう。僕に出来ること全て尽くして、キミをゼロから守ってあげる」

初め、フラービィの言葉はチナツの耳を素通りした。
おぼろげに意味が掴めたのは、素通りした言葉を一字一句吟味した後でだった。
その後も、解析結果を脳内でぐるぐるとループさせる必要があった。

返答をしっかりかみ砕きながら、「嘘……でしょ」とチナツは骨の抜けた口をぱくぱく動かした。
フラービィの顔からは、嘘を吐いているようには全く見えなかった。
いやしかし、それでも容易に信じられる事ではなかった。少なくとも、彼女にとっては。

こうもあっさり引き受けてくれたことが、チナツには信じられなかった。
今まで言葉を聞くやいなや苦い顔をしていた人たちは一体何だったのか。
どうして、彼にもっと早く会えなかったのか。

「さっきソードナイトから聞いたよ。今の君は、武器――弓を使えないんだってね。
 ならここに居ても何も問題ないと思う。僕からデデデ大王にちゃんとお願いすれば、もしかしたら。
 それに、いつまでもこんな所に押し込められるのは窮屈だよね」

他意のないフラービィの微笑みすら、チナツには灯台の明かりと同じ物のように感じられる。
彼が紡ぐ言葉ひとつひとつは、彼女にとっては心の支えと同じである。

「君が最前線に出て戦う必要なんてない。みんなを傷つける側に回らなくていい。
 もう、ゼロの駒にならなくていいんだよ。
 君は、こんなことをしちゃ駄目だ」

しっかりと地に足をつけている姿は、いつよりも頼もしく思える。
体中を絹に包み込まれるような安心感を覚え、チナツは、安堵の溜息を深く吐き出し――――

(――――あれ、ちょっと待って)

ふと、歯の隙間にスルメの引っかかったような、えもいえぬ気持ち悪さに襲われた。
それを元に、フラービィの提案を繰り返し繰り返しリピートし続ける。
そのたびに違和感は増幅し、やがてチナツの中にあった安心感を押しのけた。

冗談にならない想像、否、仮説が浮かび上がり、先程までの温かさが嘘のように背筋が冷える。
再びフラービィの顔を捉える。相変わらず、にっこりと微笑んでいる。
しかし、今や彼の微笑みなど、とんでもなく空虚な物のように、彼女には映るのだった。
頼りがいなど皆無で、信頼など最早希薄であった。
反射的に視線を逸らし、黒丸を抱擁する手に力がこもる。

(だって、だってだってだってだってだってだってだってだってだってだって)

フラービィの返事は、この上なく甘いことは間違いない。第三者が耳にしたら胸焼けしてしまうほどに。
塩を送る、という表現があるが、果たしてバケツ何杯分の塩があれば薄められるのか。
けれど、チナツには何の意味も成さなくなってしまった。

――――いや、まだそう決まったわけじゃない。とチナツは考える。
――――でも、状況証拠を見てみれば。とチナツは思案する。
――――だったら、直に問いただせばいいじゃない。とチナツは勇気づける。
しかし、チナツの四肢は、いきなりガタガタと震えだした。

一方フラービィは、はて、と首を控えめに傾げていた。
本人すら、突然の閃きに戸惑い、慌て、混乱し、自分が自分でよく分かっていないのだ。
そんな内情など顧みない他人から見れば、情緒不安定と思われてもおかしくないほどの豹変ぶりである。

「…………あ、の、さ」

チナツはゆっくりと声をかける。フラービィは怪訝そうな表情を浮かべていた。
それでも、彼女は発言をやめようとしない。

「それは、アタシだけじゃなくて、黒丸も……だよね?
 『君』の中には、当然この子も数に入っているよね? 入っているよねぇ?」

フラービィは腕を組んで、「はぁ」と溜息をついた。
その姿は、出来の悪い小学生に落胆する先生のようで。
「くだらない質問はそれで終わり?」という心の声が、ついつい聞こえてしまいそうだった。

「何を言っているの? 『ソレ』はダークマター、とどのつまり『僕ら』の敵だよ」
「て……き……? 『アタシたち』……の?」
「そう。紛う事なき闇の眷属。だから、当然見逃すわけにはいかない」

フラービィは、チナツを見据えながら淡々と話し続ける。
つい最近のとある光景と重ね合わせながら、チナツは彼の言葉を受け流していた。

『どこから情報が漏れたのだろうね。ダークマターの監視の目は何処にでもある、ということか』
『あのダークマターがゼロに情報を漏らしたに違いないのサ!』

蘇るのは、あの時の喧噪、いがみ合い。
アタシ以外が、あの子の敵だったとチナツは思い出す。

フラービィが何かを語っているが、チナツの芯には伝わらない。
今の彼女を支配しているのは、あの時の、『巣穴』での記憶。
それがぐるぐると、彼女の脳内を駆け巡っているのである。

やがて、彼女の記憶の中の、ダークブラウン色に染まった髪の青年が重い口を開く。
奇妙なことに、目の前で立っているフラービィもまた、同じ口の動きをしていた。

「黒丸を処分する」








――――刹那、彼女は旋風のように立ち上がり、朴念仁の胸ぐらを掴んだ。フラービィの体がわずかに浮かぶ。
受け身をとれないまま牢の扉にぶつかったところで、フラービィは尻餅をついた。

少女の腕という安全地帯を失い投げ出された黒丸は、か細い浮力を用いてふわふわと落下する。
しかし、チナツにはそれに気を配る余裕はなかった。

「っざけんなああああぁぁぁ!!」

小さな体躯から、鼓膜を破りかねないほどの怒号が発せられる。
あまりに短すぎる出来事、予想すらしなかった展開に、フラービィは唖然としていた。
対するチナツは息を荒げており、顔の色から活火山を連想させた。
フラービィを掴む手には、並大抵でない力が込められており、彼女が許さない限り彼は脱出できそうにない。

「『僕ら』の敵? 闇の眷属? 処分する? 知るか、知るか知るか知るかソンナコトッ!!」

憤怒の徒となったチナツを前に、フラービィは事態を飲み込めず何も返せない。
そもそも、彼女にとって悪くない提案を出したはずなのに、どうして受け入れられなかったのか。
なぜあのダークマターを庇うのか。なぜここまで怒るのか。
全てが全て、フラービィにとっては未知の展開だった。

「アンタもアイツらと同じこと言いやがって!」

対して、怒れる少女は薄情者をキッと睨みながら未だ胸ぐらを掴み続ける。
いつ殴りかかってもおかしくないほど、今の彼女はただ憎悪に支配されていた。

「結局誰も助けてくれないんじゃない!」

そう、『私』と同じだ。助けを求めたところで、確かな救難信号を送ったところで、さらに暗い海へと引き込まれる。

「アタシのことは、どうでもいいの! ただ、ただ……」
(どうしていいか分からない。『アタシ達』のことを認めてくれる味方がいれば……)

その後、しばらくはその体勢を維持していたが、自然に力が抜けていくとフラービィの首元は解放された。
そして、互いに体の支えを失い、不可抗力に流され床にへたりこんだ。
怯えた様子の黒丸が、危なげに浮遊しながらチナツの背中へ隠れた。

「……さっきのだけどさ、改めてだけどお断りするわ」

フラービィは顔すらあげない。牢にもたれかかったまま、四肢は投げ出されている。

「アタシはね、戦うためにここに来たんだと思う。
 元居た世界では、どっちつかずの体たらくだったから、この世界では地面にしっかり足をつけていたいの」

チナツは、背後にいる黒丸に目をやり、「ごめんね」と謝りながら体を撫でる。

「アタシは、アンタたちと戦うことで、アタシを認めてもらう」

外から爆発を思わせる轟音が響いた。
ダークマターたち闇の眷属と、デデデ大王率いるポップスターの住民との、戦いの火ぶたが切って落とされた。


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Q.フラービィなれなれしいよ?
A.チナツは同じ境遇の人物。厚意を取り計らおうと思っても不思議じゃない。
 戦うのも気が進まないでしょうし。

Q.で、結局どうなったの?
A.チナツはデレませんでした、という。
 女性キャラがフラグクラッシャーとは珍しい、と思われるかもですが、少女漫画では日常茶飯事(

Q.黒丸小さくない?
A.体調が芳しくないからしょうがないです(遠い目

改めてWikiを見返して、オリキャラがこの世界にやってきた動機を全く記していないことに気が付き猛省した結果がこれでした。
とにかくフラービィさんには申し訳ありません。名前が同じだけのオリキャラとは言え……orz
しかし、妙な方向に持って行かれる前にフラグを折りたかったのです。
他にやりようがあったのかと言われたら、あったかもしれませんが……。


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投稿日 : 2010/12/02(Thu) 01:55 
投稿者 : 笹  

「あ、ブレイドナイトさん、おかえりなさい!」
「おかえりなさーい!」
「さーい!」
 ベジタブルバレーの森の奥、ウィスピーウッズが鎮座する広場にブレイドナイトが現れ
ると、ウィスピーウッズJr.達の元気の良い声がそれを迎えた。三体とも、先ほどの騒ぎ
などなかったかのように、ウィスピーウッズの周りではしゃぎ回っている。
「ああ」
 ブレイドナイトは短く返事を返すと、真っ直ぐにウィスピーウッズに歩み寄った。そし
て改めて口を開こうとしたところで、ウィスピーウッズの方が先に言葉を発する。
「これJr.達、怪我をしたみんなにリンゴを届けてきなさい」
 その声に、跳ね回っていたウィスピーウッズJr.達の動きがピタリと止まる。
「えー、でもさっきあげてきたばっかりだよー?」
「おなかいっぱいっていってたよー?」
「よー?」
 口々に疑問を口にする。それに対し、ウィスピーウッズはゆったりとこう返した。
「はっはっは、確かにその通りだな。だが、怪我を治すには栄養が大切なんだ。すぐ食べ
なくても良いから、届けてあげなさい」
 そしてウィスピーウッズは自らの体を揺さぶり、三個のリンゴを落とす。
「そっかー、えいようがたいせつなんだー」
「わかったよおとうさん、たべてもらってくるねー」
「くるねー」
 ウィスピーウッズJr.達はとりあえず理解はせずとも納得したのか、そそくさとリンゴ
を拾い、連れだって森の奥へ駆けていった。
 人払いも手慣れたものだな、それを見たブレイドナイトが密かに感心していると、ウィ
スピーウッズが改めて口を開く。
「さて……ブレイドナイトよ、城には向かわなくて良いのか」
「……そこまで筒抜けか……大した情報網だ」
 それまでどこかのんびりとしていた空気が、急に張り詰める。
「常に見張っている訳ではないが、ブライト殿が森に来たとなれば、皆も騒ぐのでな」


「ダークマターが雲になるほどの群れを作ってるんだ、異常事態だろ。だから俺はデデデ
城に向かうつもりだ。お前さんはどうするよ、ブレイドナイト。陛下の元に向かうつもり
なら連れて行ってやるぜ?」
 突然現れたMr.ブライトの突然の申し出に、ブレイドナイトは一瞬戸惑った。しかしそ
れはあくまで一瞬、気の短いMr.ブライトがしびれを切らすよりは早く返答する。
「いや、折角だが遠慮させて頂く。私は近辺のダークマターを片付けている最中。いきな
り場を離れればウィスピー殿にも迷惑がかかるし、もしダークマターがまだ残っていたら
危険だ。……そうだな、では私が、そのダークマターの雲のことをウィスピー殿に伝えよ
う。」
 遠慮させて頂く、の部分で、なんでぇ……、という釈然としない顔になっていたMr.ブ
ライトは、ここまで聞いて軽く笑った。
「……ヘッ、相変わらずカタブツなのか、あるいは……まぁいい、その提案は確かに合理
的ではあるな。良し、じゃあ俺は陛下の元へ向かわせて貰うぜ」
「……ああ」
 ブレイドナイトが呟くように返事を返した頃には、Mr.ブライトは上空でデデデ城の方
角に向き直っていた。


「お前も今ここに戻るまでの間に気付いただろうが、先刻から、ダークマター達は急に姿
を見せなくなった。恐らくそのダークマターの雲の方へ向かったのだろう」
 ウィスピーウッズはここで一旦言葉を切り、ブレイドナイトの様子を見る。しかしブレ
イドナイトが押し黙っていることを確認すると、一言付け加えた。
「もうこの森は大丈夫だ」
「……今日は随分と喋られるのだな」
 以前、ブレイドナイトがこの森を訪れた時、ウィスピーウッズは寡黙にして、全く声を
発することなく、一方的にブレイドナイトに木刀を授けていた。
「必要がある時は喋るさ。今はその時だ」
「……私は。騎士団には戻らない」
 ブレイドナイトは、絞り出すように、それでいて吐き捨てるようにそう返す。
「騎士団に戻らなければ戦えないわけではなかろう」
「何を……」
「お前は、その宝剣を何のために探していたのだ」
「…………」
 腰に下げた長剣を見やる。ただがむしゃらに探し求め、マジルテで太刀使いに押しつけ
られるようにして漸く手にしたその剣は、今はただ静かに自らの脇に収まっている。自分
は何故、この剣を求めていたのだったか。
「もう不要かもしれないが、その木刀も持っていけ。修繕しておいた……お前の守った、
この森の生命力でな」
 ブレイドナイトの答えを待たずに、ウィスピーウッズが続けた。ブレイドナイトが背後
に振り向くと、そこには古い大きな切り株の上に寝かされるようにして、先日までの愛刀
でもあったウィスピーウッズの木刀が横たわっていた。
「…………」
 暫くそのままの姿勢で止まっていたブレイドナイトは、徐に切り株に近付くと、木刀を
掴みあげ、長剣と共に腰に固定した。そして振り向くことなく短く発する。
「感謝する」
「陛下を頼んだぞ」
「…………」
 ブレイドナイトはその言葉には返事をせず、森の出口へ向かって歩き出した。しかしふ
と、広場の出口で立ち止まり、今度はウィスピーウッズの方を向き直る。そしてこう言っ
た。
「Jr.達に伝えて欲しい。森の仲間達を何よりも大切に、必ず守り通せ、と」
「確かに伝えよう」
 それだけ聞くと、ブレイドナイトは広場から立ち去る。その時、見送るウィスピーウッ
ズの目には、ブレイドナイトが腰に下げた宝剣が、うっすらと煌めきを帯びているように
見えた。

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投稿日 : 2011/03/09(Wed) 03:40 
投稿者 : tate  


「ふん、バカみたいに集めたものだな」
 デデデ城正門――
 愛用のハンマーを傍らに、デデデ大王は仁王立ちになっていた。その目に映っているの
は視界一杯の黒いもや……いや、黒い壁である。ダークマターがひしめき合い、一片の隙
間すら残さず空間を埋め尽くしている。
「すごい数……これでもボクたち、ここに来るまでに結構倒してきたんだけど。ね、ガン
トレットくん」
 そうですね、と淡々とガントレットが答える。
 二人がワープスターを駆り、城に戻ってきたのはつい先程のこと。偶然見かけたダーク
マターの群れを殲滅させてきたと言っていたが、その群れですら氷山の一角に過ぎなかっ
たのだろう。
 一体どれだけのダークマターがポップスターに送り込まれていたのか。はたまた、どこ
ぞに枯れることのないダークマターの泉でもあるのか。
 それも、親玉を倒せば消える。
 そのためには先ず、この危機を乗り越えなければならない。
「……というのに、ブライトのヤツはまだ来んのか! 全く。まあよい、行くぞ皆のモノ!」
「おー!」
 カービィがきゅっと握りしめた拳を、ぴこぴこと左右に振っている。ファイアーライオ
ンが闘志が削がれたと言わんばかりの目を向けるのを見たが、細かいことは気にしないこ
とにしよう。頭を二、三度振り、デデデ大王は自らの得物を手に、ダークマターの群れへ
と足を踏み出した。

 遠心力を利用して、ダークマターの群れの中でハンマーを勢いよくスイングさせる。直
接ハンマーに打ち据えられたモノも、巻き起こったかまいたちに切り裂かれたモノも、断
末魔の叫びを上げるいとまもなく四散していく。
 弱すぎる。
 コマンドタイプのダークマターが、赤子の手を捻るかのごとく消えていく。
 この違和感にはカービィも気が付いているようで、どこぞから拾ってきたソードを振り
回しながらも、釈然としない顔をしている。
 その割に深い闇が薄れることはないのだから、敵も相当の覚悟で人海戦術を取ってきて
いることになる。
 急造の新米兵士団ということか? と心の中で嘆息した時、「焦滅しやがれぇ!!」と
聞き慣れた怒声が飛んできた。次の瞬間、頭上から降り注いできたのは熱線。慌てて飛び
退ると、体が焼かれて目玉だけになったダークマターが数え切れないほど落ちてきた。間
もなく目玉は消え去り、後に残ったのはギラギラと目を輝かせた太陽ばかり。
「いやあ悪ぃ悪ぃ、すっかり遅れちまって。大王様、申し訳ねえ! が、ヒーローは遅れ
てやってくるってな」
「ば、馬鹿者ー! 味方を巻き込んでどうする!」
 周囲にいたカービィ達が揃って無事なのを目の端で確認しつつ、肩を竦めてからからと
笑うMr.ブライトを一喝する。
「だから、申し訳ねえって言ってるだろ」
「全くだ」
 だが結果オーライだ、と心の中で付け加える。
 Mr.ブライトの一撃で壁を一掃できた。ようやく姿を現したミラクルマターを、デデ
デ大王は睨み付けた。

 *

 コンコンッ

 乾いた音と共に、ドロシアの足下に金属の歯車が転がってきた。「何よこれ」と掌に丁
度収まる程度のそれを拾い上げると、マルクの方を振り向いて……ドロシアは帽子の奥で
目を見張った。
 両手で押さえられたマルクの口から、金属の棒が伸びている。
 指の隙間からは、濁った絵の具がぼたぼたとあふれ出している。
「アンタ、そんなので大丈夫なの?」
 大丈夫であるはずがない。マルクが飲み込んだドロシアの欠片は、彼女の意思により全
面的にマルクの力になっている。それなのに、飲み込んだノヴァを押さえ込むことが出来
なくなっているのだから。
「大丈夫、なのサ……」
 そう言うと、マルクは喉元までせり上がっていた何かをぐっと飲み下し、絵の具でべと
べとになった口の周りを拭った。そして何事も無かったかのように、仁王立ちになる。
「ボクは何としても生き残ってやるのサ! そして、この宇宙の全てを見返してやるのサ!」
 バカね、とドロシアは心の中で呟く。私の力まで使っているのにそんなザマで、一体何
が出来るのよ。ノヴァを取り込み続けることで、どんどんアンタの命が削られている事が、
わからないわけじゃないでしょうに。ホント、バカな子なんだから。
「あ、そう……でもアンタねぇ」
「キミの力も必要なのサ。だからドロシア、キミはこれからもずっとボクと一緒にいるの
サ」
「……何よそれ。プロポーズにしか聞こえないんだけど」
 マルクのあまりの言い様に、呆れて思わず冷静にツッコミを入れてしまった。マルクの
ことだから、適当に軽いノリでツッコミ返してくるだろうと思っていたら、クリムゾンの
絵の具を頭から被ったかのごとく、真っ赤になって固まっていた。
 アンタねぇ……まあ、最後まで付き合ったげるわよ。
 小さく笑い、まだ手の中にあった歯車をマルクの口の中に押し込んだ。


 チナツがドロッチェの巣穴を飛び出してから既に一日。すぐに彼女の後を追って出たは
ずのビュートも早々のその足跡を見失い、結局チナツを捕まえることは出来ていなかった。
「そろそろ日が沈むね、一日中チナツ殿を探していたのかい?」
 巣穴の入口付近に佇む青年の背に、ドロッチェはそんな言葉を投げかけた。無論青年は
答えない。
「あれから考えたのだが、ビュート殿、君にはあのダークマターを斬る気なんて、さらさ
ら無かったのではないのかな。あのダークマターは随分と君に懐いていたようだし」
 ビュートが視線だけをドロッチェに向いた。
「ああ言えば、少なくともあの場はそれで取り繕えた。マルクと対立することもない。そ
の後君がどうするつもりだったのか、私には想像も付かないがね。何にせよ、あのダーク
マターをここから引きはがすことには成功した。良かったじゃないか」
 相変わらず沈黙を保ったままのビュートの姿に肩を竦めると、ドロッチェは踵を返そう
として端と動きを止めた。
 ビュートがついと頭を上げる気配を感じながら、ドロッチェは口の端を上げた。
「来たね。さあ、ゼロの本気を見せて貰おうか」
 シルクハットのツバに手を添え、空を仰ぐ。黄昏が沈む藍色の中で白い二十面体――ミ
ラクルマター達の無数の瞳が彼らを捕らえた。

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